ドラマ「与鳳飛」
第8集
<第8集>
蒼寒聿は笑顔で南娰の一挙手一投足を見つめ続けている。
「見飽きないの?」
「見飽きないよ。ずーっと見ていられる。きみが私のもとを逃げ出さないかと、気が気ではないんだよ」
寝る前の薬湯を飲ませてもらった蒼寒聿は、苦い、と南娰に甘えた。
「どうしろと?」
「接吻してくれたら、苦みが無くなるんだよぅ」
「いい大人が甘えるな!」
「ええ!? 可愛いだろ!?」
「気色悪い!」
蒼寒聿と南娰がじゃれ合っている頃、明かりの消えた蒼雲澤の居室に女性が入ってきた。
待ち伏せした蒼雲澤は、不意打ちで彼女の首を掴む。
「誰だ!」
「大表哥、私ですってば!」
白依依だった。
「蒼家の継承人になりたいんでしょ? 私が手伝うわ」
蒼雲澤は腰を据えて白依依の話を聞くことにした。
「何が望みだ?」
「蒼寒聿。蒼寒聿が欲しいの」
蒼雲澤が茶を入れる。白依依が当然のように手を出した。
寸前で蒼雲澤が手を伸ばし、器を取って飲む。
「すでに策を練っているようだな」
「簡単なことよ」
来月、蒼家は貢品を宮中へ献上するため、隊列を組んで京城へ出掛ける予定だ。毎年、蒼老夫人と蒼寒聿が同行するのだが、今回は蒼老夫人を蒼府に残すように白依依は計画していた。
このところ蒼老夫人は咳に悩まされていた。眠りが浅く、体が弱っている。
実は、これが白依依の計画だった。薬湯に毒を盛り、徐々に蒼老夫人の体力を奪っていくのだ。
蒼寒聿の背中の傷口は塞がったが、南娰に甘えたい彼はまだ癒えていないと彼女に世話をさせる。
食事の時もそうだ。南娰が食事を居室に運んでくると、彼は食べさせてくれと頼んだ。
南娰が茶碗を投げる。俊敏に身を起こした蒼寒聿は、飛んできた茶碗を片手で受けた。
「動けるじゃないの。私を騙したわね!」
終始こんな感じなので、南娰も慣れたものだ。彼女を組み敷く蒼寒聿に、三つ数えるうちに放さなければ殴ると宣告し、ひとつ数えたところで不意打ちを食らわす。
胸を拳で打たれた蒼寒聿が抗議した。
「嘘をついたな!」
「わざとじゃないの、ごめんなさいね~」
そうやってじゃれているところに、蒼老夫人から呼び出しがかかった。
蒼老夫人はひどく咳き込みながら、白依依に薬湯を飲ませてもらっている。
「母上、急にどうなさったのですか!?」
「歳のせいね。薬を飲んでも、いっこうに良くならなくて」
また蒼老夫人が咳き込む。あまり話さないほうがいいと、白依依が気遣った。
「聿児、今回の京城行きはあなたたちに任せたわ。気を付けて行くのよ」
蒼老夫人の病状の急激な悪化は、明らかに妙だった。もともと蒼老夫人は丈夫な質で、蒼寒聿が知る限り大病をしたことがない。
「娰児、今回の入宮は嫌な予感がする。私のそばを離れるな」
南娰も先刻の白依依の態度を見て、感じるものがあった。
夜中になっても、蒼老夫人は咳で眠れなかった。喉を潤そうとして、すでに水を飲み切っていることに気付く。
蒼老夫人はかすれた弱々しい声で人を呼んだ。
扉が開き、女性が入ってくる。白依依ではなかった。
「なぜ、おまえが…!?」
女性はゆっくりと寝台の蒼老夫人に近づいた。
蒼府の側門から、馬車と何台もの台車が出てきた。台車には山と行李が積まれている。宮中へ納める貢品だ。
隊列は多数の家丁と護衛の保鏢に守られている。先頭の馬車には蒼寒聿と南娰が乗っていた。
「娰児、必ず私の言う事を聞いて、無茶はしないでくれ」
「そこに下心は無いのかしら?」
蒼寒聿はしっかり南娰の手を握っていた。
「あるわけがないよ。私はきみの無事ばかりを願っているのだからね」
蒼府の隊列が街を離れ、山道に入る。彼らを追うように、草が揺れた。
草むらから、弓を持った男たちが彼らを狙っていた。
<第9集に続く>