ドラマ「寵妃凰図」
第20集
<第20集>
大長公主には十八年前に生き別れた娘がいた。
当時、先帝の即位に尽力した大長公主には、幼い婚外子の娘がいた。先帝は彼女の娘を可愛がったが、やはりそこは皇帝だ。ある時、娘を郡主に冊封する理由で長公主府から連れ出し、そのまま大長公主のもとに返さなかった。
最近になって蒼寒聿が捜索を命じ、暗閣に預けられたことが判明する。そこで大長公主は、蒼寒聿の助言もあって暗閣の首領、南娰に娘の安否の調査を依頼した。
蒼寒聿に呼ばれた南娰は、夜の湯殿へ行った。
湯に落ちた桃色の花びらがろうそくの明かりに照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出している。
誰もいない。湯殿の奥まで入る。
不意に背後から蒼寒聿が抱きついてきた。
「陛下、仕事の話ではなかったのですか? 急用でなければ、お暇致します」
蒼寒聿は南娰の手を握った。
「朕から去るつもりなら、子供を残して行ってくれ」
そうでなければ手を離さないと言い、蒼寒聿は強引に口づけた。
はじめは抵抗していた南娰も、いつしか夢中になって応じる。
南相府で雑用をこなす素衣が、中庭で白い半月状の玉佩を落とした。
彼女のすぐあとを通りかかった蒼明華が拾い、なじみのある形状と彫り物に驚く。
「それでは、素衣が大長公主の娘であることを早くからご存じだったのですね」
男装の南娰はじっと見つめてくる蒼寒聿に訊ねた。
「そうだ。大長公主は武国の監国だ。どの勢力に肩入れしてもいけない。だから明かさなかったのだ」
素衣はもちろん、自分が大長公主の娘だとは知らずに育っている。そんな彼女は容楚修に淡い恋心を抱いているようだった。
もしも大長公主の娘が素衣だったと報告したら、きっと彼女の感情など考慮されずに別の男性に嫁ぐことになる。なぜなら、容楚修が皇帝側の人物だからだ。監国は皇帝とも距離を保たねばならなかった。
「思いのほか、皇上は部下に対して思いやりがあったのですね」
意地悪を言ってみる。蒼寒聿は素直に謝った。
「すまない、騙すつもりは無かったのだ。大長公主への報告はきみの判断に任せるよ」
「また私を悪者にするのね」
南娰は言わないつもりだ。気持ちが通じた蒼寒聿は、嬉しくなって彼女の頬に軽く口づけた。
素衣の落とした玉佩は、皇族の身分を証明できるものだった。蒼明華も同様の玉佩を持っている。
そこで彼は南娰に玉佩を並べて見せた。
「…大長公主に報告してくれ。暗閣に入った娘は夭折した」
南娰の寝台を整えている素衣に、蒼明華はちらっと視線をやった。
蒼明華が長公主府へ出かけたあと、素衣をそばへ呼んだ南娰は質問してみた。
「素衣、もしかして容相が好き?」
「…好きですよ」
素衣はちょっと恥じらいながら、しかしはっきり答えた。
幼い頃から暗閣で訓練してきたものの、素衣は出来が悪かった。容楚修がいなければ、追い出されていたかもしれない。それに、彼はいつも素衣の大好きな糖葫芦を買ってくれる。
けれども容楚修は名門貴族の出身で、現在の素衣の身分とは釣り合わない。彼女を容家が嫁として受け入れることは無いだろう。
「それでも、好き?」
「んー… 好きなものは好きですから」
高望みはせず、今までのようにそばに居れたらそれでいいと素衣は言う。
「あ、そうだ。最近、居眠りが酷いでしょう? 陛下と喧嘩でもしたんですか? あ、気分転換に散歩に出ましょう」
「いや、大丈夫」
言った次の瞬間、南娰は倒れた。
<第21集に続く>