ドラマ「寵妃凰図」
第2集
<第2集>
「朕の皇后になれ」
「皇上、強要なさるのですか?」
「朕の望みは分かっていよう?」
寝台で南娰を組み敷く蒼寒聿は、彼女に覆いかぶさった。
男装の南娰が顔を背ける。
「皇上、お許しを。ご命令には従えません」
「一度だけでも?」
「ダメです」
「罰すると言ったら?」
「死をご所望ならば、従います」
南娰は毅然とした態度で答える。
それ以上無理強い出来ないと感じた蒼寒聿は、諦めて彼女を帰した。
大武歴二十八年。兄の皇位継承を阻んだ蒼寒聿は、武国の皇帝となっていた。
南娰はというと、男と偽って右相の官職にある。けれども彼女の本来の仕事は間諜だ。今は秦家の四女、秦娰として秦府に入り込んでいる。国舅の秦越が彼の妹である太后と結託して、蒼寒聿を帝位から引きずり降ろさんと画策しているのである。後釜には嫡子の蒼雲澤を据えるつもりだ。ちょうど南娰は、その秦越を捕えたばかりだった。
ちなみに、彼女が女性であることは極秘事項である。知っている者は限られている。現在、南娰は秦府で引きこもりを演じつつ、主に南相府で生活していた。
若くして皇帝の寵愛を得て、広い屋敷を持っている南娰は、妬まれることが多い。しかも捜査権限も持っているため恨まれてもいる。
今日も南娰は朝堂で端王に糾弾された。真昼間の往来で端王の息子に暴力を振るったというのだ。
「端王のご子息は人前で私を侮辱なさいました。日ごろから慎み深い端王ですから、大事にはしたくありません。慰謝料として一千両いただきます」
南娰は堂々と金銭を要求した。これに蒼寒聿が同意する。
「朕の重臣を侮辱したのだ。それより、朕から追及されたいか?」
それこそ大事にしたくない端王は引き下がった。
そんな出来事があったあと、南娰は寝宮に呼ばれた。行くと、ちょっとでも彼女に近づきたい蒼寒聿がふざけてくる。
「御用がなければ退室いたします」
蒼寒聿は仕方なく態度を改め、捕えた秦越について訊ねた。
「今晩中に片が付くと思います」
拷問を受けた秦越は、太后一派全員の名を紙に書いた。
「陛下の口諭である。秦国舅は長年にわたり朝綱を乱した罪で官位をはく奪、奴隷として京城から放逐する」
ただし皇帝の恩情により、対外的には先帝の守陵の任に就いたことにする、と南娰が伝える。
それを聞いた秦越が、怒りに任せて南娰の官帽を払った。はらりと彼女の髪が解けて肩に落ちる。
「秦娰!?」
「秦国舅、私がおまえの娘だと本気で思っていたのか?」
この時になって初めて、四女として引き取った娘が南娰であると秦越は気付いた。自分の愚かさに笑いがこみ上げる。
次の瞬間、彼の胸元から刃が生えた。背後に立つ素衣が剣を引き抜くと、彼は口から血を流して倒れた。
朝廷での仕事を終え、南娰は南相府に帰ってきた。
待っていたのは同じ年頃の女性、南嘉だ。彼女は蒼寒聿から郡主の位を賜ったため、有望な皇后候補だと自負している。当然、過度な寵愛を得ている南娰を快く思っていない。
茶を注ぐように命じ、いつものように南娰につっかかった。
「ただの下僕に過ぎず、子をはらむ腹も持っていないんだから、聿哥哥に付き纏うのはやめなさい」
ちなみに、彼女も南娰を男性だと思っている。
喧嘩を吹っかけられた南娰は、注いだ茶に細工する。ひと口飲んだ南嘉はぺっと吐き出した。
「何なの、これ!」
「最近の南嘉姑娘は怒りっぽいから、味覚がおかしくなったんだろう」
カチンときた南嘉は、南娰の顔に茶をぶちまけた。
<第3集に続く>