ドラマ「寵妃凰図」
第1集
<第1集>
大武歴三十七年、高宗が崩御し、嫡子の斎王、蒼雲澤が皇帝の座を継いだ。しかし残虐非道な彼は旧臣を粛清し、民に動揺が走る。
そんな中、蒼雲澤の弟にして庶子の蒼寒聿が禁軍によって捕えられた。藍月国と結託して謀反を企んだ容疑だ。
無論、でっち上げである。密書が屋敷から発見されたと言うが、明らかに蒼寒聿を陥れるためだ。
そして彼の妻の南娰は藍月国の公主である。両国の和平協定のための縁組だったが、今ではお互いに深く愛し合っている。
その南娰は、蒼寒聿の子を身ごもっていた。蒼寒聿は臨月の彼女を守るため、屋敷に戻って離縁状を叩きつけた。
「夫婦としての情はここまでだ」
「どうして…」
南娰は戸惑う。
「もう愛していない。ほかの女を妻にするためだ」
「信じられないわ」
「今すぐここを出て行け! 二度と武国の領土に足を踏み入れるな!」
こみ上げる涙を見られないように、蒼寒聿は彼女に背を向けた。
たったひとり屋敷に残った蒼寒聿を、兵士が取り囲んだ。
「南娰を離縁した。敵国と通じ、謀反簒奪を企てたのは私だ!」
兵士が囲みを縮める。
同じ頃、雪が降りしきる中を、護衛に守られた馬車が走っていた。
馬車の中では、産気づいた南娰が陣痛に苦しんでいる。斥候に出ていた護衛が、廃屋となった宿を見つけてきた。
「公主、もう少しの辛抱です!」
付き添うばあやと侍女が南娰を励ました。
その夜のうちに赤子が産声を上げた。男児だ。
生まれたばかりの赤子を抱え、ばあやが小走りで外に出る。
「私の子を返して!」
南娰が疲弊した体で追いかける。
井戸を背後に、ばあやが立ち止った。
「公主、藍月国から書簡が届きました。この子は生きていてはいけないのです!」
武国が国境で藍月国に圧力をかけていた。南娰を差し出さなければ戦いを仕掛けると言う。藍月国には武国を相手にできるだけの軍事力が無い。強国に膝を屈するほか無いのだ。
「公主、あの世でお子様のお世話を致します!」
赤子を抱いたばあやが井戸に身を投げた。
「待って!! 私の子を返して!!」
南娰が泣き崩れる。
禁軍を従えた蒼雲澤があらわれた。馬上から南娰を見下ろし、一緒に栄華を堪能しようと誘う。
「…すべてあなたの企みなのね」
「私は天下の王だ。望むものは全部手に入れてやる」
蒼雲澤の目的は南娰だったのだ。
南娰は短剣を振り上げ、自らを貫いた。口から血を流して倒れる。
もしも二度目があるなら…
愛妻の死を、蒼寒聿は牢の中で聞いた。
解放された彼は宿へ走り、井戸のそばで亡くなっている南娰を発見する。
蒼寒聿は遺体にすがって慟哭した。
「もう一度やり直すことは不可能ではない。しかし、あなたの望みすべてが叶えられるとは限りません」
ひざまずく蒼寒聿にそう告げたのは大祭司の東華である。南娰を守るため、彼は兄が皇位に就く以前に時間を戻してくれと頼んだのだ。
「時間が戻るなら、構わない」
「よろしい」
東華はその場で秘法を行った。地面のあちこちから黒い霧が噴き出す。
娰児、次は権力を握ってきみを守る。
<第2集に続く>