ドラマ「幻鏡閣」
第15集
<第15集> 比翼双飛(上)
うたた寝していた浅夏は、夢を見てはっと目覚めた。
雪の降る忘川の河岸で、両手両足を鎖で繋がれている女性の夢だ。もだえ苦しむ彼女の足元には、紅い彼岸花が咲いていた。
西夏から公主、舞黎の一行が広陵城を訪れた。彼女は皇室に嫁入りする予定である。
舞黎が皇城に入るまでの三日間、浅夏が身辺警護の任に就いた。
一行が宿泊する駅站に赴いた浅夏は、舞黎からある頼みごとを受けた。
「浅捕頭、紅い衣服の女性を知っている?」
幻鏡閣の老板娘、曼珠のことだ。
夜。
曼珠を呼び出した浅夏は、舞黎を連れてひと気のない街角で落ち合った。
曼珠は携えてきた小箱を開け、中に入っている蝶を舞黎に見せる。
「この忘情蝶を相手に向けて祈れば、あなたに対して心を動かした記憶がこの蝶に流れ込みます。相手の、あなたに心動かした記憶が永遠に消えるのです」
無料だと言い、曼珠は不安そうな表情の舞黎に小箱を渡した。
「ありがとう」
礼を言い、舞黎は駅站へと戻って行く。だが、浅夏は動かなかった。もの言いたげに曼珠を見つめる。
「…行かなきゃ」
浅夏は公主を追いかけた。
西夏公主の舞黎が貼身侍衛の郜義儒と出会ったのは十年前だ。郜義儒は少年の頃から寡黙で、辛抱強く舞黎のわがままに付き合った。ふたりきりになると彼女は公主と呼ばれるのを嫌い、名を呼んでくれと言う。
「命令よ」
やがてふたりは恋仲になる。だからと言って、郜義儒が一線を越えることはなかった。
舞黎の父である西夏王が皇帝に謁見するため、中原入りすることになった。周囲の目を盗んで城楼へ上がった舞黎は、一緒に中原へ行って”七彩祥雲”を見てみたいと伴をする郜義儒に話した。
「舞黎、”七彩祥雲”は見たいからと言って見れるものではないよ」
郜義儒は落ち着いた口調で話し始めた。
あるところに恋人同士の男女がいた。仕方なく別れることになったが、どうしても忘れられない。輪廻転生を繰り返しても、忘れられない。艱難辛苦を乗り越えても相手への愛を忘れずにいれば、或いは天界の神が哀れに思ってくれるかもしれない。そうして吉兆の”七彩祥雲”を降らせ、ふたりの仲を許すかもしれなかった。
”七彩祥雲”があらわれたら、私を娶りに来て。
それが郜義儒の伝え聞く伝承だった。
「…義儒、笛を聴かせて」
優しくほほ笑んだ郜義儒が、横笛を吹く。舞黎は目を閉じて聴き入った。そして、彼の肩にもたれる。
<第16集に続く>