ドラマ「青雀成凰」
第27集
<第27集> 消失的她
なぜ私はここで寝ていた?
朝の光に気づいた慕王は、痛む左腕を庇って身を起こした。彼が眠っていたのはいつもの寝台だ。
「義父!」
趙力士が飛んできた。彼によると昨夜、青雀の居室で慕王と雲煥が倒れていたらしい。
「雲煥は地下牢です。青雀は見ていません」
慕王が握っていた玉佩は趙力士が保管していた。詳細に確かめた慕王は、その玉佩が偽物だと知って床に投げつけた。
赤い彫り物の無い玉佩はその昔、慕王が彫ったものだ。わざわざ淮王の虎符に似せて作ったのは、いつか淮王軍のような軍隊を持ちたい、その目標を忘れないためだった。
それが、青澄と雲煥の手を介して戻ってくるとは。
青雀の居場所を雲煥は知らないと言う。尋問を終えた慕王は、しかし彼が知らないはずはないと考える。
雲煥が地下牢を脱出したら、一番に青雀に会いに行くだろう。ならば彼の脱獄を待って尾行すればいい。青雀のもとへ導いてくれるはずだ。
目が覚めたばかりの青雀は、去っていく女性の後ろ姿と、棚を模した扉が閉まるのを見た。
どこだろう、ここは。倉庫のような場所だ。
「どうして私を閉じ込めるの!?」
青雀は棚に向かって呼びかけるが、返事はない。
ふと、つづらの上に持ち手の付いた箱が置かれていることに気付いた。中には青雀の好物の点心が入っている。彼女の好物を知っている者はこの世でただひとり、青澄だけだ。
ここは淮王府の大廰の奥に造られた隠し部屋だった。少女の頃の青澄が見つけた、外部の音は聞こえるが内部の音は遮断されているという例の部屋である。
青澄は純粋に青雀を助けたい。厳詢蒼は淮王公主を救いたい。ふたりは共謀して慕王、青雀、雲煥を眠らせ、青雀だけをこの隠し部屋に運んだのだ。
夜を待って、黒装束に身をやつした厳詢蒼は地下牢に忍び込んだ。
目を閉じている雲煥の鎖を解く。その瞬間、雲煥の手が彼の覆面を剥いだ。
「眠り薬はおまえの仕業だな。青雀はどこにいる?」
「私ではない、青澄だ」
厳詢蒼は、淮王府の隠し部屋に青雀を匿ったことを話した。
「具体的な場所までは知らない。自分で探せ」
そこに慕王が横領した公金が隠してあるだろうと付け加える。
「なぜ私を助ける?」
「淮王と公主のためだ」
厳詢蒼は、青雀の書き付けを雲煥に渡した。
「鵲児が発見した手掛かりだ」
立ち去りかけて、厳詢蒼が立ち止まる。
「雲煥、慕王を倒したら、私に代わって青澄の情状酌量を嘆願してくれ」
厳詢蒼が地下牢を出て行く。
雲煥は渡された書き付けを広げた。碁盤上の交差部分にいくつもの赤い丸がある。その中にひとつだけ、バツ印が書かれていた。
着替えた厳詢蒼は、黒装束をまとめて床下に放り込んだ。
「捨てたのは何?」
不意に声を掛けたのは青澄だった。
床下から拾おうとする彼女を厳詢蒼が止める。だが腕を掴む力が強すぎたのか、青澄は顔をしかめた。
あわてて手を離す。
その時、厳詢蒼の後方から守衛を引き連れた趙力士があらわれた。雲煥が逃亡したため、王府内の者ひとりひとりを調べているという。
青澄は、厳詢蒼を庇ってあいだに立った。
「厳神医はずっと私と一緒にいたわ。無礼を働くと承知しないわよ!」
一喝された趙力士は頭を下げ、ふたりの横を通り過ぎる。
趙力士と守衛の姿が見えなくなってから、青澄は床下から黒装束を拾った。厳詢蒼の前に投げる。
「郡主、雲煥の逃亡に私が関与しているとお思いですか?」
「合理的な説明をしてくれたら、あなたを信じるわ」
「…私はかつて淮王府におりました」
厳詢蒼は正直に慕王と敵対する側にいると話した。
「郡主に明かしたのは、下心があると疑われたく無かったからです」
「厳詢蒼、私に嘘をつくのは仕方ないと思っているわ。でも嘘をつくなら、一生バレないようにして」
青澄は厳詢蒼の腰に腕をまわし、胸に頭を預けて目を閉じた。
「義父、雲煥の動きはすべて把握しております」
雲煥は淮王府に向かったと趙力士が報告する。
「かまわん、ヤツは袋の鼠だ」
<第28集に続く>