ドラマ「我才不要当王妃」
第14集
<第14集>
黄文吉と文靚靚の気配が消えた。場所を移したのかもしれない。
寝台に並んで腰掛ける崇六と王瑞秋は気まずかった。文靚靚がいつ襲ってくるか分からないので、部屋を別にはできない。
おずおずと崇六が出した手を握り、彼は寝台で、王瑞秋は床の布団で眠る。
翌朝もぎこちない空気は変わらなかった。
「相公、表妹は殺し屋だって黄文吉に伝えたほうがいいんじゃない?」
「それはダメだ。おまえの正体がバレる」
どうしたものか。
そんなところへ、黄文吉がどたどたと部屋に飛び込んできた。彼は目を赤く腫らして大変な事態が起こったと叫ぶ。だが、言葉のわりに嬉々としている。
「昨夜、私と表妹は…一緒に寝たんだ!」
まさか、刺客と枕を共にしたということか?
信じられず、問いただしてみる。
話そうとした黄文吉が、床に敷かれた布団に気付いた。あわてて崇六が話を元に戻す。
黄文吉曰く、昨夜は三百回もふたりは闘ったらしい。それだけしても、彼は文靚靚が刺客だと気づかなかった。文靚靚が黄文吉に攻撃するのは、彼の力量を試していると信じて疑わなかった。彼女が攻撃の前にかぞえる数は、ふたりの合言葉だと言う。
「それで、なんで世子は死ななかったの?」
文靚靚は間違いなく黄文吉も暗殺の標的に加えている。相手は熟練した刺客だというのに、どうして黄文吉は生き残れたのだろうか。
「私は死なないよ」
そんな馬鹿な。
王瑞秋が笛で崇六に訊ねる。
じゃあ、のほほんとしたこの馬鹿が表妹を封じ込めたというわけ?
后院の庭を歩いていた文靚靚は、王瑞秋の鳴らす笛の音に気付いた。
聞こえてきた崇六の部屋に近づき、扉越しに聞き耳を立てる。
黄文吉は特殊能力を会得していた。
元来、頭のねじが一本抜けている黄文吉は、皇室の中でも浮いた存在だった。いつか騒動に巻き込まれて殺されるのではないか。彼の将来を案じた母は武芸の達人を捜し出し、学ばせた。それが”絶対防御”である。
この”絶対防御”は、黄文吉が眠っていても発揮される。もしもそれが破られたならば、破った人物が運命の人であると師父は黄文吉に話していた。
そして、破ったのが文靚靚だった。
昨夜、いつものように枕を抱いて眠りこけている黄文吉の部屋へ、文靚靚が忍び込んだ。五から一までかぞえ、短剣で彼を襲う。しかし”絶対防御”を会得している黄文吉は、起きている時と同様に鉄壁の守りを見せる。そして枕の代わりとなった文靚靚は抱きすくめられ、気が付いたら朝までそのまま眠っていた。
そうして目を覚ました文靚靚は、隙をついて彼に目潰しを食らわせた。
これが”絶対防御”が破られた経緯だった。扉の外で盗み聞きしていた文靚靚は、様々な疑問に合点がいった。
それにしても、目を突かれて”絶対防御”を破られたのに黄文吉は浮かれている。
「間違いなく表妹は運命の人だ!」
「でも、表妹の出身は平民で礼儀も知らないから、王族と結婚したら中傷されるかもしれないわ」
王瑞秋がちらっと崇六を見て言う。
「無知だし性格は粗暴だし。世子が告白しても、逃げるんじゃないかな」
「逃がさないよ」
「もしも表妹に別の顔があったら?」
「…きみは靚靚の表姐だろう?」
表妹を悪く言うとはどういうことかと問われ、王瑞秋ははたと我に返った。
「それで、どうするつもりだ?」
「靚靚に求婚する!」
黄文吉はすくっと立ち上がって拳を上げた。
<第15集に続く>