ドラマ「青雀成凰」
第23集
<第23集> 我要把所有人欠你的、都替你找回来
打たれても我慢して。慕王はあなたの血を見れば気が済むから。それに、慕王の言葉には決して逆らってはいけない。慕王が嫌気を生じなければ、私たちふたりへの風当たりも弱まるのよ。
口論芝居のあいだに青雀からもらった助言を守り、雲煥は私兵を抱えたことを謝罪した。
「王爺が倒れておいでの慕王府を、ただ支えたかったのです」
杖を突いて雲煥に近づいた慕王は、彼の肩を掴んだ。力を籠め、体重をかける。雲煥の顔が苦痛でゆがんだ。
「…鵲夫人に手を上げるべきではありませんでした」
謝罪の言葉を聞いて、ようやく慕王は怒りを収めたらしい。雲煥に手を貸して立たせた。青雀はほっとする。
「そこまで気遣えるなら、なぜ淮王の玉佩を渡さない?」
「玉佩は適切な場所に保管してあります。明日にでも取りに向かいます」
しばらく雲煥の目をのぞき込んで表情を読んだ慕王は、分かった、と短く言って彼から離れた。
とりあえず許された雲煥は、背中の怪我もそのままに慕王府を出た。
青雀も、慕王の薬を買いに行くと言って出掛ける。
ふたりは風筝坊で落ち合った。雲煥の傷を手当した青雀は、彼に玉佩を渡す。
「雲煥、あなたは慕王府を出たほうがいいわ」
これ以上、雲煥が鞭打たれる場面を青雀は目にしたくない。
幸い、今回の件で青雀は少しは慕王の信用を得たようだ。彼女が慕王府に残っても心配無さそうだ。
雲煥には、厳詢蒼が集めた旧淮王軍が待っていた。
「しかし、そう簡単に事は運ばない。淮王軍の虎符の片方は聖上がお持ちだ」
虎符である半環形の玉佩の、あと半分は皇帝が持っている。このふたつが揃って初めて、皇帝命令で慕王を討てるのだ。
「慕王の造反は明白だわ。聖上はきっとあなたにもう一方を渡すはずよ」
残る問題は横領した公金の隠し場所だ。何年も国政に深く関与してきた慕王は、早くから公金に手を出していたらしい。
雲煥は地図を青雀に見せた。淮王陵府とその近辺を描いた地図で、あちこちに赤い印が書き込まれていた。
この赤い印のどれか、もしくはすべてに公金が隠匿されている。軍師が探索に向かった際、待ち伏せに遭ったので間違いないだろう。
「もしかして、この地図を手に入れるために、あの日、淮王府にいたの?」
「そうだ」
「横領の問題があったから、慕王を生かしておきたかったのね」
「その通りだ」
雲煥は軽く青雀の額を指で弾いた。
「慕王にとって、玉佩は頭上にぶら下がる剣ね」
慕王が下手に動けば、その剣が彼の頭に直撃する。
とにかく早急に公金の隠し場所を捜し出し、玉佩のもう一方を皇帝から賜らねば。
雲煥のあとを追うようにして、青雀が慕王府を出て行った。それを聞いて、彼女を探しに行くために慕王は杖を握った。
その時、診察のために厳詢蒼が居室にやってくる。案内した青澄は、初めて会う彼へ不信の目を向ける父に神医だと紹介した。
「ここ数日、丸薬の準備をしておりました」
この丸薬を飲めば、数日で体が元に戻ると言う。
厳詢蒼が差し出した小瓶を趙力士が受け取り、中を確認してから慕王に渡す。
慕王は、厳詢蒼に絶対的な信頼を置いている青澄を信用し、丸薬を飲み込んだ。
青青、青青、と甲高い声が聞こえた。
大きな凧を見上げていた青雀がふり返ると、雲煥が鳥かごを手に提げて立っていた。
鳥かごの中に小鳥がいる。雲煥に殺されたはずの小鳥だ。
「生きていたの!?」
当時、青澄が彼女の出自を疑っていた。青澄の目を誤魔化すためにスープを作った雲煥は、寸前で鳩にすり替えたのだ。
小鳥は今も、雲煥は青青が大好き、としゃべっている。
「…どうして私を刺して、ひとりで重荷を背負ったの?」
すべては青雀の安全を考えてのことだ。それに、雲煥は父の死の真相を知りたかった。
慕王は淮王が彼の父を殺したと言うが、その言葉を信じていなかったのだ。
雲煥は慕王の口から真実を語らせるつもりだった。
「私は大きく誤解していたのね。雲煥哥哥、公金を見つけて聖上に報告して。私は王府の中から援護するわ」
「すべてが終わったら、きっとこの恩は返すよ」
背伸びした青雀は、雲煥の額に口づける。彼女の目には涙が光っていた。
「小鳥を頼む」
青雀はうなずいた。
雲煥と別れて慕王府に戻ってきた青雀は、后院の庭で厳詢蒼と出くわした。
「もうここへは戻って来ないと思っていました」
「厳大哥、今までどこに居たの? 心配したわ」
青雀は、雲煥を誤解していたと話す。厳詢蒼も彼が殺意を抱いていないことに気づいていた。
「ひとつ、言っておかねばならないことがあります」
厳詢蒼は”同心蠱”の本当の作用について青雀に明かした。”同心蠱”の毒にあたったふたりは、早晩、死に別れの運命にあることを、だ。
「雲煥は死を覚悟しているようです」
「…厳大哥、あなたは最初から本当に私を救うつもりだったの?」
青雀の問いに、厳詢蒼は視線を逸らした。
逸らした先に、趙力士の姿が見えた。こちらを窺っている。
「青雀、私たちは道を違えたのだ!!」
突然、態度を変えた厳詢蒼は、大きな声で青雀を実名で呼んだ。
<第24集に続く>