ドラマ「青雀成凰」
第9集
<第9集> 我只放你一馬
「鵲児!!」
青雀と視線を交わした厳詢蒼が逃げる。しかし雲煥には追う余裕がなかった。
剣を捨て、青雀を抱き上げた。
意識はあるものの、青雀が負った傷は重かった。慕王府に呼んだ医者から、今夜が峠だと告げられる。
雲煥は寝ずに看病した。
朝。眠っていた青雀が目覚めた。峠は越えたのだ。
枕元で看病していた雲煥は彼女が起きるのを助け、手を握る。
「毎日、あなたたちの仲睦まじい様子を見せつけられてきたわ。私が将軍の代わりに死んだら、覚えていてくれるかしら」
「苦肉の策か。辛い思いをさせてしまった」
どこまでが彼の本心だろう。
「こんなに尽くしてくれて、将軍は噂を恐れないの?」
「言わせておけばいい」
気絶した青澄も慕王府に帰っていた。
慕王の診察を終えた厳詢蒼は、こめかみを押さえ、顔色の冴えない青澄に話しかけた。
「昨日、祈祷に行く道中で刺客に襲われたと聞きました」
「驚いて気を失ってしまったわ」
厳詢蒼は彼女のうしろに回り、やさしく首のうしろを揉んでやる。
「厳神医は鵲夫人の友人でしたね。怪我を負って臥せっているので、お見舞いに行かれたらどうかしら」
外部の男性が居室に入ることは許されていないが、と青澄は付け加えた。
雲煥が刺客の件で報告を受けている最中、得意になった青澄が書斎にやってきた。
無視を決め込む雲煥に、鵲夫人の部屋に間男がいると告げる。
厳詢蒼が居室を訪れた時、すでに青雀は起きていた。
「なぜやつを庇ったのですか?」
「あなたのほうが危なかったからよ」
厳詢蒼の腕では雲煥に敵わないと気付いたのだ。
「信頼を得てから玉佩を捜すほうが得策だわ」
厳詢蒼はうなずき、道具箱から薬を出した。
「傷口に塗りましょう」
そこへ青澄と雲煥が飛び込んでくる。厳詢蒼の姿が見えない。
「厳詢蒼をどこに隠したの!?」
「さぁ。厳神医は人づてに薬をくれたけれど」
雲煥は、厳詢蒼が隠れている場所に察しがついた。以前、慕王とはち合わせた時に彼が隠れた幕の裏だ。
食い下がる青澄に写経を命じて帰し、雲煥は幕の裏に向かって声を掛けた。
「厳神医、出て来られよ」
厳詢蒼は素直に姿をあらわして、薬を届けただけだと言う。
「将軍、神医が悪いわけでは…」
厳詢蒼を庇った青雀が顔をしかめてよろめいた。雲煥と厳詢蒼が同時に手を差し伸べる。雲煥は厳詢蒼の手を払った。
「ここはあなたの来ていい場所ではない。彼女の心配もしなくていい」
「いえ、医者としての本能からです」
「いいか、許すのは今回限りだ」
雲煥に凄まれた厳詢蒼は引き下がり、居室を出て行った。
青雀を寝台に座らせ、雲煥は傷口を見せることに躊躇する彼女に自分の持ってきた薬を塗ってやる。
「これからは、きみの傷に薬を塗ってやれるのは私だけだ」
雲煥、あなたの言葉はどれが本心でどれが嘘なのか分からない。
青澄は、雲煥の書斎までやってきて青雀の悪口を並べ立てた。
その中でひとつ、雲煥が気になることがあった。竹林で青雀のあとをつけた際、彼女は水場からどんどん遠ざかって行ったらしいのだ。
晩になって、雲煥は薬湯を居室に持って行った。
狸寝入りする青雀を起こし、飲ませる。
「熱いわ!」
「冷めてから飲むといい。元気になればなるほど、きみは人をからかう気力が湧いてくるようだ」
小さく笑う青雀の目が雲煥の懐の中の令牌に留まった。
「毎日こうやってそばに居てくれるなら、傷なんて治らなくていいわ」
「私の助けが必要であれば、直接言うといい」
「その都度、何度も衛兵に説明して通してもらわなければならないのよ」
面倒だと青雀が言う。
彼女の目的は明白だ。令牌をもらって、自由に書斎に出入りしたいのだ。
「ダメかしら?」
「ほかの者がきみを疑っても、私は違う。怪我した雀は私の手のひらから逃れられないよ」
令の字が彫られた令牌を、雲煥はぽいっと寄越した。
雲煥、あなたに奪われた玉佩を取り戻してみせるわ。
<第10集に続く>