ドラマ「明月祭君心」
第17集
<第17集>
蕭奇風は、髑髏の周囲で炎が形作っていた花形に見覚えがあった。右の前腕にある痣と同じ花弁だ。将軍府に出入りする医者に痣を見せたら、これは入れ墨だと断言した。
そして、髑髏の灰から見つけた紅い宝石を明かりにかざすと、同じ花の形があらわれた。
駅館から押収した花譜の書物に、同じ形をした花が紹介されていた。晴花というその花は、北疆の万年雪に覆われた高山で見られるという。
蕭奇風が素晴と書物に関して話をしていたら、侍女に手を牽かれた青花蝉がやってきた。
「何清賦が捕まったのだから、寧国の間諜は解読書にそれを使わないわ」
「何を偉そうに!」
「ちょっと、私の未来の夫に手を出さないでくださる?」
また素晴と青花蝉の口げんかが始まる。
「彼は私の師兄よ!」
「それほど言うなら、妾にしてあげてもよくてよ」
絶句した素晴が目じりを吊り上げる。つかみかからんばかりの素晴を、蕭奇風は止めた。
「それで、何用ですか?」
「あなたの母上に会わせてほしいの」
「何のために?」
「先日の件を謝罪するためよ」
あくまでも彼女はふたりの仲を裂きたいらしい。
「少し時間をいただけますか? 天命司で会えるように取り計らいます」
「じゃあ、手土産を準備しなくちゃ」
優越感に満ちた目で、青花蝉は素晴を見下した。
夜間の皇城は静寂そのものである。その闇の中を、ふたつの人影が宮善司に滑りこんだ。黒装束に身をかためた蕭奇風と墨夜行である。
ふたりは夜の宮善司で作業する英姑姑を、背後から剣で脅した。
「声を出すな! …おまえは怡妃を知っているな?」
声音を変えて蕭奇風が問う。前を向いたまま、英姑姑はガクガクとうなずいた。
蕭奇風は髑髏の灰から見つけた紅い宝石を見せた。
「これは…この宝石からあらわれる図案は怡妃が描かれ、宮善司の者がお造りしました」
英姑姑の背後にあった気配が消える。すると、それを待っていた李公公がとなりの部屋から姿を見せた。
「苦労をおかけいたします」
「いえ、滅相もない…」
立ち上がった英姑姑は頭を下げた。
「付き合わせて、すまん」
「何を言うんだ、オレたちの仲じゃないか!」
墨夜行は笑いながら蕭奇風の背中を叩いた。
蕭寒哉は、先に立って歩く墨夜行の背を、複雑な思いで見つめる。
蕭奇風は自ら描いた絵を手にして、母のいる天命司へ行った。
楽しそうに絵を描く母に声を掛ける。
「あら、どうしたの? 手に持っているものは何?」
蕭奇風は絵を見せた。晴花を描いた絵だ。
「何という花かしら? 上手く描けているわね」
母は本当に晴花を知らないようだ。
そこへ慈恩がお茶を運んできた。晴花の絵を見て顔を輝かせる。
「晴花ね、美しいわ! 北疆の美女だわ! 花言葉は自由よ!」
「師姐、晴花をご存じですか?」
「いいえ、聞いたことがあるだけよ」
慈恩はそう言って部屋を出て行った。
「母上、寧国公主が会いたいと言っています」
先日のさわぎを思い出し、夫人の顔が曇る。蕭奇風は夫人に何やら耳打ちした。
寧倩兮の意向を汲み、蕭夫妻は天命司で彼女と会った。蕭奇風と素晴も同席する。
「蕭夫人、先日は…」
「あなたが怡妃を殺したの?」
寧倩兮の言葉を遮り、蕭夫人は夫を詰問した。
「怡妃は寧国の間諜だったのだ。夙国の大将軍である私が間諜を殺害して何が悪い?」
「怡妃を崖から突き落としたの!?」
「自ら飛び下りたんだ!」
「怡妃は命の恩人だったのよ!」
蕭夫人は涙をためて蕭寒哉を責める。
「あなたが怡妃を殺したと知っていたら、将軍府の敷居は跨がなかったわ! …風児は怡妃の遺児なのよ」
蕭寒哉は平手で卓を叩いた。
<第18集に続く>