ドラマ「千金丫鬟」
第25集
<第25集 得到你、不択手段>
協力者に次々と断られた方予澤は、ますます方天逸に対する憎しみを増大させる。
方天逸は勝利を確信しているだろうが、こっちはおまえの弱味を握っているぞ。
方天逸と董聴瑶の仲は、どうせ陳媽が知っている。老夫人に呼び出された董聴瑶は、すでに覚悟が決まっていた。
人払いした応接間で訊かれた董聴瑶は、方天逸と夜を過ごしたことを認めた。
「何という…!」
「私は二爺の小間使いだったのですから、そういう仲だとご存じのはずです」
恥じらいもない董聴瑶の態度が、老夫人の怒りに油を注ぐ。
だが、董聴瑶にも言い分があった。老夫人はふたりの関係を知っていたはずだ。だから彼女が董聴瑶だと判明した時、老夫人は董聴瑶と方予澤の婚姻に躊躇したのだ。それなのに、紀家の財力を目当てに方天逸と紀明月の縁談を進めた。そして方天逸が董聴瑶を諦めるよう、彼女と方予澤の婚姻を正式に決めた。
「方家の現状は分かっています。ですが、二爺の心情を察することはできなかったのですか?」
「天逸の心情…?」
方家に嫁いでからというもの、老夫人は心情などという私的な感情は封印して生きてきた。財閥や軍閥、王侯貴族の家系では、感情よりも利益が優先されるのだ。
「でもね、天逸に近づいてほしくないのは、何も方家のためだけではないの。天逸のためでもあるのよ」
方天逸と董聴瑶の婚約が決まった時、方予澤の母が見つけてきた占い師はこの縁談を”克死”と告げた。董聴瑶が方天逸を死なせる運命であると言ったのだ。
この占いのおかげで董聴瑶は20年間も外部の人との接触を禁止され、ふたりが苦しむ結果となった。
「あなたも天逸の不幸は見たくないでしょう?」
いつもは毅然とした態度を取る老夫人が、弱々しく董聴瑶に懇願する。董聴瑶はうなずくしかなかった。
お菓子を持った董聴瑶は、離れにある董雁児の部屋へ行った。
扉の外で聞き耳を立てているだろう陳媽に聞こえるように、大きな声で他愛もない話をする。
ベッドの上でうずくまる董雁児のそばへ寄った董聴瑶は、声をひそめた。
「雁児、本当は正気なんでしょう?」
董雁児が低い声で笑う。
「私ね、予澤の書斎を調べているの」
董雁児は目を見開いて姉を見た。
方予澤が朝から商用で出かけた。帰りは昼食時を過ぎるらしいので、チャンスだ。
方予澤の書斎に入った董聴瑶は前回と同じく南京錠をピンで外し、引き出しから暗号解読書を取り出す。
董聴瑶は、妹の布団の中から見つけた暗号を読み解いていった。
解き進めていくにつれ、涙があふれてくる。
”6月7日、正面から董府に突入し、大小姐以外の家人すべてを抹殺せよ。大小姐に関しては、使い道があるので生かしておくように。”
董聴瑶は万年筆を手落とした。
やはり、方予澤が首謀者だった。
「聴瑶、そこで何をしているのかな?」
突然、背後から声が聞こえた。董聴瑶はびくっと飛び上がる。
方予澤が立っていた。彼は董聴瑶を嵌めたのだ。
「私に嫁ぎたいと言ったのは本心だったのか?」
「本心だったわ」
「今は?」
董聴瑶は答えない。
近寄り、口づけようとする方予澤を、董聴瑶は拒否した。
「なぜ方天逸はよくて、婚約者の私はダメなんだ?」
いつもの柔和な方予澤は消え、鋭い眼光で董聴瑶を見つめる。
「二爺はあなたとは違うわ!」
「またそれか」
幼い頃から方予澤は同年代の方天逸と比べられ、叔父と似ていないと言われ続けてきた。どれだけ努力しても、方天逸と肩を並べることは出来なかった。それが欲している物を叔父に奪われたという被害妄想に結びついたのだろうが、方予澤は自覚していない。方予澤の不幸の責任は、すべて彼以外にあると思い込んでいた。
「こんなにきみを愛しているのに、きみまでそんなことを言うのか」
「愛しているなら、どうして私の家族を襲ったの!? どうして私の手を借りて方天逸を殺そうとしたの!?」
「うるさい!!」
方予澤は董聴瑶の頬を叩いた。
「欲しいなら奪ってみろと二叔が言っていた。やって見せよう」
「何をするつもり!?」
「方天逸の倍はいい思いをさせてやる」
董聴瑶は護身用のナイフを出して振り回すが、簡単に奪われてしまった。
「方家の一切を手に入れたら、一番に方天逸を殺してやる。そうすれば、きみは大人しく私の言うことを聞くのだろうね」
方予澤は、デスクの上に押し倒した董聴瑶にのしかかった。
<第26集に続く>