ドラマ「千金丫鬟」
第18集
<第18集 只有利用、没有信任>
自室に駆け込んだ董聴瑶は、タンスから守り袋を取り出した。
以前、鍵を盗むために方天逸に贈った守り袋とよく似ているが、こちらは15年前に”少爺”だった方天逸からもらった守り袋だった。
「母に作ってもらったんだ」
あの時、良い香りがするからと、方天逸はモクレンの花びらを摘んで守り袋の中に入れた。
あの少年が方天逸だったのだ。
董聴瑶はまさに夢心地だった。
そこへ、陳媽が封書を届けに来た。差出人の名前は無い。
首をかしげつつ董聴瑶は中に入っていた便箋を広げ、目を通した。董聴瑶の目に怒りと涙がこみ上げる。
今夜、15年前に約束した場所で待っています。
董聴瑶から伝言を頼まれた劉副官は、別院の書斎で仕事をする方天逸に伝えた。
「二爺、止めたほうが…」
15年前の約束が何かは知らないが、あの女が関わるとろくなことがない。そう思っている劉副官は、方天逸を止めた。
「大丈夫だ」
そして、やはり方天逸は劉副官の忠告に耳を傾けない。むしろ笑みがこぼれる方天逸だった。
床に座り込んだ董聴瑶は、便箋に書かれた文章を何度も読み返した。
6月7日の夜、戌の刻に董府を襲撃する。董家の”大小姐”以外は全員抹殺せよ。もしもこの命令を外部に漏らした場合は、命令違反で厳重に処罰する。
左下には方天逸の名と、督軍の証である”鴿子血紋”の印象が押されていた。
この命令書の筆跡に、董聴瑶は見覚えがあった。間違いなく方天逸の筆跡だ。
夜、モクレンの木のそばで董聴瑶は待っていた。やってきた方天逸は、彼女の背中に声を掛ける。
「思い出したんだな」
「忘れていたほうが良かったかもしれないわ」
董聴瑶の声がおかしい。方天逸は異変に気付いた。
ふり返った董聴瑶の目に憎しみが滲んでいる。
「あなたは全部知っていて、私を小間使いにしたのね!」
董聴瑶は、董府襲撃の命令書を方天逸の胸元に押し付けた。
命令書を見た方天逸は言葉が出ない。こんな子供だましに騙されるとは。
方予澤にやられた、と小さく笑う。その笑みを嘲笑と誤解した董聴瑶は、方天逸を責めた。
「今までずっと私を騙していたのね!」
「こんなものひとつで、私への信頼が無くなったというのか?」
「あなたへの信頼? 私は一度も信頼したことは無いわ!」
仇を討つために方天逸に近付き、利用し、看病したのだと言う。
董聴瑶は、持ち出したナイフの切っ先を方天逸に向けた。方天逸が父から譲り受けた、あのナイフだ。
「仇に甘い顔を見せてはいけない、そう教えてくれたわね」
董聴瑶の声は震え、目には涙をためている。
「私はきみを騙したことなど一度も無い。私を信じてくれないのか?」
董聴瑶は首を横に振った。
「…そうか。ならば、殺すがいい」
いざ手を下すとなった董聴瑶は、しかし躊躇する。どうしても、できない。
方天逸は彼女の手を掴むと、自らの左胸にナイフを突き立てた。
「これで、満足だろう…?」
ナイフを抜き、地面に落とす。切っ先は血で真っ赤に濡れている。
方天逸が膝をついた。
「二爺…! 死んではダメ…!」
「二爺!!」
駆け付けた劉副官が董聴瑶を突き飛ばした。
「董聴瑶、殺してやる!!」
感情にまかせて、劉副官が董聴瑶に銃口を向ける。その腕を方天逸が掴んだ。
「逃がしてやれ…」
「しかし!! この女は二爺のことなど、何とも思っていません! 好意を仇で返したんです!」
「もう、言うな!!」
方天逸が胸を押さえて呻く。劉副官は方天逸を支えて立ち上がった。
「…ここを離れるんだ…」
方天逸がまだ董聴瑶を気遣う。
「董聴瑶、いつか後悔させてやる!」
方天逸を抱えながら劉副官は別院へ急ぐ。
その後ろ姿を、董聴瑶は呆然と見送った。
<第19集に続く>