ドラマ「欽天異聞録」
第11集
<第11集>
童肦秋、白洛書、蘇建翊の三人は、賑やかな聖都の通りを歩いていた。
失踪事件が解決しても、童肦秋の気分は晴れなかった。童肦秋の渋面に気が付いた白洛書は、口当たりの良い甘いお菓子を買って渡したが、彼女はとなりを歩く蘇建翊に包みを押し付ける。
童肦秋が抱えている問題は、いかにして四年前の一件の再捜査を許可してもらうか、である。この四年、暇さえあれば手掛かりを探ってきた。しかし何ひとつ、証拠は挙がってこない。蘇建翊があらわれるまでは。
蘇建翊が生き残った証人だからといっても、捜査は安易にできない。天誅司司主の余瓊から、終わったことを蒸し返すなと反対されるからだ。
四年間をかけて、欽天監は失墜した信頼の回復に努めてきた。その努力を無駄にするのか、と余瓊に言われると、それ以上ごり押しすることは出来なかった。
「別にさ、こいつを助けるのがきみでなくてもいいだろう?」
「…決めた。もう何も言うな」
決心した童肦秋は、白洛書と蘇建翊を置き去りにして、欽天監へ戻って行く。
「…上手くやったもんだ」
白洛書が嫌味を込めて言った。蘇建翊は何のことか分からない。
「おまえのせいで、巡天按察使ともあろう者が面倒事に一直線だ」
白洛書はお菓子の包みを蘇建翊の手から奪い返した。
白洛書の推測通り、欽天監に戻った童肦秋は余瓊の部屋へ行った。挨拶もせず、開口一番、再捜査の許可を願う。
「欽天監の総力を挙げて調査すべきです! 我々の恥辱を晴らす時なのです!」
予想した通り、余瓊の怒号が飛ぶ。
五日後には皇帝の祝宴が控えている。欽天監は今が最も忙殺される時期なのだ。
「再捜査だと? 恥の上塗りだ!」
反論できず、再捜査の許可ももらえなかった童肦秋は、見るからに落ち込んでいた。彼女の顔色をうかがいながら、白洛書が機嫌を取る。
「きみと違って余瓊は小心者だからさ、仕方ないよ」
白洛書のお追従を聞いているうちに、少しは気分が良くなってきた。
「実は、再捜査をしたいと思うのは欽天監のためだけじゃない」
「蘇建翊だろ?」
「かれも一因だが…」
四年間も進展が見られなかったというのに、なぜ皇帝の祝宴が開かれるこの時になって手掛かりが見つかったのか。童肦秋はそこに黒く渦巻く陰謀が隠されているような気がしてならなかった。
意を決した童肦秋は、天牢の岐天意に面会した。天外奇石の欠片を見せ、助言を求める。
「私も預言は間違いだったと思いたい。だが異客が跋扈する限り、皇帝の命は危うい」
しかし当時も今も、かれの預言に耳を傾ける者はいない。
「私を信用するなら、その欠片を高く掲げてくれ」
童肦秋は言われた通り、天外奇石の欠片を掲げた。欠片が赤く輝き始める。
<第12集に続く>