ドラマ「山河令」
第10集 後編
<第10集 後編>
張成嶺は口元にあざを作って部屋に戻ってきた。干菓子を持ってきた顧湘を、涙で濡れた目で見つめる。
「湘姐姐、なんでみんな私を嫌っているの?」
顧湘が張成嶺を”金豆侠”と呼んで慰めようとしたら、高小怜がやってきた。食事が口に合わなかったらいけないと、張成嶺のために桂花香糕を持ってきたのだ。顧湘はそっと部屋を出る。
張成嶺はいつも以上に、高小怜に対して他人行儀に接する。
ふたりに婚姻話が持ち上がっていた。婚姻は通常、両親が決める。だが、このままでは張成嶺は高崇の傀儡にされてしまう。
「私が子供だからと、軽く見ないで欲しい!」
危機感を感じた張成嶺は、あえて厳しい口調で結婚の意志は無いと告げる。
涙を浮かべて出て行った高小怜と入れ違いに、顧湘が部屋に入ってきた。
「湘姐姐、師父と温叔は今どこにいるの?」
軟禁状態で、しかも弟子たちから疎外されている張成嶺は早くふたりに会いたかった。
妓楼にいる温客行のもとへ、顧湘が報告にあらわれた。羅府でひとり生き残った鄧寛がなぜか重傷を負って帰ってきたこと、そして鄧寛と恋仲の高小怜に張成嶺との婚姻話が出ていることを報告する。
生き残った際、鄧寛は軽傷だった。それは顧湘が羅府で確認している。
そして、死んだ岳陽派の弟子の頭部を利用したのは、たぶん無常鬼だと顧湘は話した。錦筵坊での一件に関して、喜喪鬼も顧湘も詳細は知らなかった。
「高小怜との婚姻について、張成嶺は何か言っていたか?」
張成嶺の待遇があまりに可哀想だと思った顧湘は、かれが周子舒と温客行に会いたがっていることを伝えた。温客行がじろりと顧湘を睨む。
「計画は変えぬ。自分が鬼谷の無心紫煞であることを忘れるな」
新たな動きがあればまた報告せよと言って、温客行は立ち上がった。ふと思い立ち、顧湘に訊ねる。
「私は狂っていると思うか?」
顧湘がガクガクとうなずく。
「私が怖くないのか?」
「私は”鬼”になってもご主人様について行くもん!」
顧湘はくったくのない笑顔で答えた。彼女の言う”鬼”とは幽霊のことである。
「では、容赦なく暴れてみるか」
曹蔚寧と約束の食事をしている最中、顧湘は歌姫を呼んだ。この間の鬼谷の伝令である。歌姫が卿玉楼から来たと聞いた顧湘は、”相見歓”という曲を頼んだ。
これを曹蔚寧は誤解する。顧湘が歌に乗せて思いを語ってくれるのだと勘違いしたのだ。
羅府に重々しい空気が流れた。集められた鬼谷の鬼たちが、温客行を前にして怯えている。ひとり椅子に座る喜喪鬼だけは、その限りではなかった。
青崖山からの下山を許して三か月、いまだに吊死鬼と琉璃甲の行方は分かっていない。それどころか、江湖を騒がせるような事件をたびたび起こしている。温客行は十大悪鬼の功罪を順に挙げていった。
戦々恐々とする鬼たちの前で、温客行は反逆の感情を持ったとして白常鬼をくびり殺した。
白常鬼と黒常鬼を配下に持つ無常鬼を問い詰める。死人に口なしで、無常鬼はすべての責任を白常鬼になすりつけた。
次は笑いを抑えようと四苦八苦している開心鬼だ。かれは真剣な場面に遭遇すると無性に笑いたくなるのだ。
傲崍子と弟子たちを殺害し、三白山荘の城楼に吊るしたのは自分ではないと、開心鬼は笑いをこらえながら答えた。殺害の印として口を裂いたのも違うと言う。
「まあいい。それより、英雄大会でなにか面白い企画はないかな?」
高崇、趙敬、沈慎の面子を粉砕してやろう、と温客行は楽しそうに笑った。
<第11集に続く>