一人暮らしを始めた頃、一人で豆まきをしたことがありました。
一人で鬼は外。
一人で福は内。
一人で…。
部屋中に豆が散乱していました。
虚しくなりました。
一人でやってて何が面白いのだろう…。
……。
…否、面白い。
そう思ったのが落語です。
そう思わせてくれたのが春風亭昇太さんです。
そんな昇太さんの独演会『春風亭昇太35周年落語会 ~夜道に月あかり冴えて~』。
初日に行ってきました。
師匠である五代目春風亭柳昇さんに入門した当時から今日に至るまでの諸々に、折々重なるネタの数々。
まず、一席目は古典『牛ほめ』。
新作派の柳昇さんから教わったのは、同じく古典の『雑俳』とこの『牛ほめ』だけだったと仰る昇太さん。
『雑俳』の方は、柳昇さんと昇太さんそれぞれの口演をCDで聴いたことがありました。
でも、『牛ほめ』は初めてで、しかも貴重な柳昇仕込みの古典。
師弟両方のファンとして、弟子の中にある師匠に思いを馳せる一席でした。
![]() |
にっかん飛切落語会 特撰 春風亭柳昇
6,501円
Amazon |
続いて、二席目は『悲しみにてやんでぃ』。
二ツ目時代に書いたというこの噺。
それこそ若かりし頃の昇太さんが落語を披露する姿をテレビで見かけると、大抵この噺だった記憶があって、私の中で長らく「春風亭昇太」といえば、この『悲しみにてやんでぃ』でした。
また、この噺の主人公は「落語家を志す田ノ下君(昇太さんの本名が「田ノ下雄二」さん)」。
また、この噺の主人公は「落語家を志す田ノ下君(昇太さんの本名が「田ノ下雄二」さん)」。
もちろん、実際の入門エピソードとはかなり異なる創作とはいえ、やはり当時の昇太さんが色濃く感じられる噺。
それを現在の昇太さんで聴くと、当時と違うようで違わない、ちょっと違う…ような味わいを感じたのでした。
三席目は、昇太さんが「好きな噺」と仰る古典『寝床』。
三席目は、昇太さんが「好きな噺」と仰る古典『寝床』。
初めてCDで聴いたとき、とりわけ後半の「旦那の義太夫」の「得体のしれない」感にひたすら笑いました。
その描写は一見…否、一聴すると、いくら絵の中の雀が飛んだり、彫り物のねずみが喋ったりする落語の世界でもナンセンス極まる感が。
しかし、まぎれもなく、落語の妙味である「想像」の広がりで楽しむ世界。
めくるめく荒唐無稽さが私も好きな噺で、改めて仕草を交えて聴くと、「旦那の義太夫」に対するリアクションが更に笑いを誘う一席でした。
めくるめく荒唐無稽さが私も好きな噺で、改めて仕草を交えて聴くと、「旦那の義太夫」に対するリアクションが更に笑いを誘う一席でした。
仕草の部分でいうと、やはり、あの座布団の使い方が実にユニーク。
そして、ますます不思議な世界へ至る『ネタの家(うち)』。
四席終えた昇太さんが迷い込んだそこは、これまで作った新作落語たちが屯する空間。
先述の『雑俳』や『オヤジの王国』も披露された26周年では『ネタの部屋』だったのが、35周年では遂に一軒家となり、ネタたちとのやりとりにもまた変化があり…。
…と、とりとめもなく振り返り、全体を見渡せば、高座の横(下手側)に組まれた如何にも昇太さん好みの昭和レトロな部屋で一人語りして、その話題に因んだ噺を高座でかけては、また部屋に戻り…を繰り返す構成に、会場である本多劇場らしい「演劇」の色合いも強く感じた2時間半弱。
![]() |
春風亭昇太2 26周年記念落語会-オレまつり
3,500円
Amazon |
いわば「(一人)芝居と落語のミルフィーユ」的な手法が、演劇にも通じている昇太さんらしくもあり、また、演劇と落語の表現手法の違いを改めて感じさせてもくれたのでした。
そんな昇太さんの独演会を満喫したのは、もう一昨日(おととい)。
鬼よりも福よりも再び一昨日が来たらいい気分の節分の晩もまた、夜道に月あかり冴えて。