皿に山盛りの水瓜が載っている。
燃えるように真っ赤に熟した水瓜である。
彼はその一切れを手に取ってガツガツと食べ始める。
とてもせっかちに食べ進めるので時折ガリッと黒い種を
噛み潰す。
彼はプッと種を吐き出してまたガツガツ食い始めるのである。
この水瓜はよく冷えていて甘く、彼がこれまでに食べた水瓜の
中でも一番うまかった。
はじめに山盛りの水瓜を目にしたとき
「一度にこんなに食えるかよ。残したらもったいねえなあ」
と苦情を言っていた彼だが、
今はうまいうまいと一心不乱に水瓜にかぶりついている。
彼がこれはうまそうだと手にした一切れはそこまで甘くなかったり
これはそんなにうまくなさそうだと手に取った一切れが驚くほど
甘かったりした。
それにしても不思議だ。
黒と緑のまだら模様の実の中に、真っ赤でこんなにも
みずみずしい果肉が詰まっている。
彼はこのみずみずしい仄かな甘みが大好きだった。
部屋の中に飛び込んできた銀色のハエを片手で追い払いながら
彼は水瓜にかぶりつく。
鋭い夏の日差しは地面を、屋根を、カレンダーのかかった壁を
じりじりと焼いていく。
彼が悪いジョークのつもりで製氷皿から一つとって投げた
透明な立方体は完全に解け切って縁側に小さな水溜りを
つくっている。
俄かに小さな風が起こって、窓に吊るした小さな風鈴を叩いた。
陶器のブタが呑み込んだぐるぐる蚊取り線香、風鈴、水瓜、
打ち水、扇風機、ハエタタキ、タンクトップ。
彼は夏が嫌いだったが、そんな風物の一つ一つは嫌いじゃなかった。
「水瓜も食ったし、プールでも行くか・・・!」
彼はそういう男だった。