白い2tトラックと青いスポーツカーが鉄橋を滑っていく。
鉄橋は河を越えるためのもので僕が乗る電車が走っている
線路と並んで建っている。
窓の外に広がる空は乳液をこぼしたようにうっすらと
優しい水色をしていて、所々まっさらな真綿を横にスッと
引いたように雲が流れている。
おだやかで、ちょっと気だるい感じの太陽の光が
居眠りする乗客の肩にそっと降りかかっている。
エアコンをつけるほどではないが上着を着るには
少し暑いくらいの陽気か。
古びたクリーニング店とお稲荷さんに挟まれた
小さくて古くて全体的に黒っぽい、石炭のような印象を受ける
ボロボロの民家があった。
雨ざらしになっている為にすっかり色が剥げ落ちた
二層式洗濯機の前に一匹の猫がいる。
首に鈴をつけてしっぽをぴんと立てている。
背中の黒と灰色のまだら模様が美しい、まだ仔猫である。
仔猫はエプロンをつけたおばあさんについて回っているらしい。
おばあさんが動くたびに仔猫が右に左に活発に跳ね回って
その度首から提げた鈴が鳴る。
ちりん、ちりんちりんちりんちりん、ちりん・・・。
ちりんちりん、ちりんちりんちりん、ちりんちりんちりん。
おばあさんが何か仔猫に話しかける。
仔猫は澄んだ瞳でおばあさんを見つめて首をかしげている。
おばあさんは家に戻っていった。
仔猫はしばらくおばあさんがまた出てくるのを待っていたようだが
どこからかギラギラした緑色のトンボが飛んできて、今度は
そちらが気になるらしい。
仔猫の瞳に映りこんだ空もまた優しい水色をしている。
とある夏の午後のことである。