04040205050100080301 | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで



誰かに呼ばれたような気がした。


僕は急いで振り向いたけれどそこには誰もいなかった。


気のせいかもしれないし、そうでないかもしれない。

僕を呼んだ声は―それが僕の頭の中から発せられた虚ろな

響きに過ぎないとしても―とてもなつかしい、ちょっと鼻の頭が

ムズムズするようなすてきな音をしていた。・・・と思う。



しかし夏の太陽は容赦なく全てを焦がし、僕の脳みそも

焼き切られてしまった。

どうやら今日はあちらこちらで回線が断線しているらしい。

どこへ行っても固く閉ざされた扉に「Under Construction...」の

札が下がっているのだ。


僕はうんざりして空になったコカ・コーラの赤い缶を蹴っ飛ばした。




ビンゴ。




缶は派手な音を立てて、白いペンキの剥げかかったくずかごに

ダイブする。近くを通りがかったハトが驚いて飛び去っていく。


それにしても暑い。なんて日だ。


これまで一度も訪れなかった、そしてこれからも恐らくないであろう

灼熱の太陽である。街はさながらバーベキューの様相をしていて

あらゆるものが暑さにうなされていた。

木々や草花は沈黙しどぶ川の魚達は白い腹を見せて浮んでいる。

オケラやミミズやネズミ達は涼しい、どこか別の場所へ逃げていった

のだろう。


街に僕以外の人間の姿はなかった。


「こんな日はみんなスイカでも食べながらスイカ症候群で死んでるんだ。」


僕は今頃クーラーのよく効いた涼しい部屋の中でいいともでも観ながら

ソーメンをすすっているだろうこの街の人々を思い浮かべて恨めしく思った。



街は死んだように静かだった。


アスファルトの照り返しが僕を苦しめる。

横断歩道や車道と歩道の境界線になっている白線がまぶしく光を反射して

僕の目に深く突き刺さるのだ。

僕は地面に描かれた白い光の道を避けるようにして黒ずんだ車道を

歩いてゆく。


「何、構いやしないさ。車の往来どころか信号機だって暑さで逃げだして

いるんだから」


しばらく進むと左手に朽ちかけた掲示板の先に

石畳の道が続いているのが見えた。

石畳は両側を桜の木に挟まれて白い鳥居に吸い込まれている。

神社だろうか・・・。

道は桜の葉擦れの音でいかにも涼しそうである。




僕は迷わずそちらに足を向けた。