やっぱ、淡々と記事を書くより、
絡みがあって書いてるほうが、楽しいですね(笑
今度は、だいぶ軽いタッチです。
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その時、僕は会社の通路で、同僚と話をしていた。
「僕は、あれだ、ケイコって名前の女とは、
絶対に上手く行かない運命なんだよ。」
そんな時、違う部署の女性がその脇を通り抜け、
怒るでもない、悲しむでもない、
でも、強い意志を感じる視線で、僕を数秒間見ていた。
歩き去った後、同僚から、
「きっとケイコさんだったんだろ。」
そう言われて、少し申し訳ない気持ちになったのだけど、
やはり、僕の中で、ケイコという名前にいい思い出がないのも、事実。
そういえば、この会社でも同期にケイコがいた。
松本君、明日は遅刻しないでよね!
そう、突拍子もなく僕に説教をしたかと思えば、
翌日自分が遅刻したり、
子供が出来たからと、退職する時に、
上司にその時期を相談しにいったら、辞めるんだろ?判ってるよ、
と冷たくあしらわれた事に憤慨して、
同期中に、「女性が出産で辞めるのが当たり前と想う管理職に、
みんなはならないでね!」
と、恥ずかしげもなく、メールしてくる女だった。
翌日、フロア全体の朝礼で、そのすれ違った女性が紹介された。
漢字は判らないけど、やっぱりケイコだったわけで、
違う部署だったのは、僕にとって良い事か悪い事なのか判らないけど、
多分、顔つきは、僕の好きな顔だった。
その日の帰り、たまたま僕はケイコさんとすれ違ったので、
これを好機と話しかける。
「先日は申し訳ないです、
ちょっと、僕、ケイコという名前の女性と、AB型の人とは、
昔からホントに相性悪くて、
気分を悪くさせていたら、ほんとごめんなさい。」
すると、あの日と全く同じ視線で、ケイコさんは、
僕を見て、
「私、AB型です。」
そう言って、去っていった。
そうやって僕は、日常の大半をうかつに過ごしている。
自分が、豊かな羽毛に包まれていると、
誤解できていたのは何時までだったろう。
1枚1枚はさして重要ではなくでも、
こうやって僕は、殆ど丸裸に近い状態まで、
色々なものを損ない続けてきた。
そしてまぎれもなく、それは僕の所為なんだと想う。
そうやって数ヶ月の間、
通路ですれ違うたびに、僕らは声を掛けるワケでなく、
露骨に目を逸らす訳ではなく、
ただ、すれ違うたびに、少しだけ空気が硬くなるのを感じることになる。
でもなんとなく、僕は申し訳ない気持ちが日増しに大きくなって、
すれ違うときには、声に出して挨拶をするようにしていた。
そんなことで、
抜け落ちた羽毛が生え変わるとも想ってなかったのだけれど。
それから暫くして、
僕はケイコさんと、会社の企画の関連で出張をする事になった。
もちろん2人でという訳ではないのだけど、
九州までの飛行機の中で、
僕とケイコさんは通路を挟んで、隣同士になった。
飛行機が指定高度に上がるまでの、
忌々しい平衡感覚の崩れと僕が格闘しているとき、
ふと隣を見ると、ケイコさんはもう寝ていた。
微かに開いた唇から除く歯の白さに目を奪われて、
くやしいけれど、好みの顔だなと、
忌々しいけど思わずにいられなかった。
カバーも掛けずに読んでいた、
マイナーな作者が書いた小説をシートに置き、
トイレに立つ時、何も忌々しく想う必要もないなと思い、
席に戻ると、
ケイコさんは起きていて、本を読んでいた。
カバーも掛けずに、僕と同じ本を。
席に腰を下ろし、もう一度本を開いた所で、
なんとなくケイコさんと視線が合い、
同じ色のカバーを互いに見て、
僕らは初めて柔らかい表情で、互いを見たんだと想う。
だから、博多空港についてから、
地下鉄に乗り換えるまでの短い間に、
僕は、子犬のようにケイコさんに走りより、
「あんなマイナーな作家を僕以外に読む人がいて嬉しいですよ。
昔からの読者なんですか?」
「そんなにマイナーですか?」
と、声色だけはきつめだったのだけど、
僕たちの間に流れていた、数か月分の不穏な空気は随分と和らいでいると、
僕は自信を持てた。
だから、たった2駅の地下鉄の間、
必死に僕は、ケイコさんに話しかけ、
また怒られるかもしれないと、想いながら、
博多のホームに着く寸前に、ケイコさんに質問する。
「ケイコさんは、どんな漢字なんですか?」
やれやれという顔をしながら、それでもケイコさんは、
「キヘンにツチツチで、桂子ですよ。」
そう、教えてくれた。
僕は満面の笑みを浮かべて、
「今までで初めてのケイコさんだから、
きっと、桂子さんとは、相性悪くないんだと想うんですよ!」
ケイコさんから、桂子さんになった、ケイコさんは、
地下鉄のドアが開くと同時に、声を出して笑っていた。
「じゃあ、あとはAB型との相性問題を解決してくださいね。」
初めて下りる博多の駅は、なんだかあんまり東京と変わらない街だった。