島井宗室(その4) | ドリップ珈琲好き

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生中心得身持可致分別事

島井宗室(十七ヶ条)

 

【一】 一、生中、いかにも貞心りちぎ(律義)候ハんの事不及申、親両人・宗怡(そうい)両人・兄弟・親類、いかにもかうかう(孝行)むつまじく、其外知音之衆、しぜん外方之寄合にも、人をうやまいへりくだり、いんぎん(慇懃)可仕候。びろうずいゐ(尾籠随意)のふるまい少も仕まじく候。第一、うそをつき、たとい人のゝしりきかせたる事成共、うそに似たる事、少も申出事無用。惣而(そうじて)口がましく、言葉おゝき人は、人のきらう事候。我ためにもならぬ物ニ候。少も見たる事知たる事成共、以来せうぜき(証跡)に成候事ハ、人之尋候共、申まじく候。第一、人のほうへん(褒貶)、中言などハ、人の申候共、返事も耳にもきゝ入るまじく候。

 

【二】一、五十ニ及候まで、後生ねがひ候事無用候。老人ハ可然候。浄土宗・禅宗などハ可然候ずる。其外ハ無用候。第一、きりしたんニ、たとい道由・宗怡いか様にすゝめられ候共、曾以無用候。其故ハ十歳ニ成候へバ、はやしうしだて(宗旨立)をゆい、つミきそねるきそとゆい、後生たて候て日を暮し夜をあかし、家を打すて寺まいり、こんたすをくびかけ、面目に仕候事、一段ミぐ(見苦)るしく候。其上所帯なげき候人の、第一之わざハひ(禍)ニ候。後生・今生之わきまへ候てゐる人は、十人に一人も稀なる事候。此世に生きたる鳥類・ちくるい(畜類)までも、眼前のなげき計仕候。人間もしやべつ(差別)なき事候間、先今生にてハ、今生之外聞うしなわぬ分別第一候。来世之事ハ、仏祖もしらぬと被仰候。況凡(いわんや)人之知る事にて無之候。相かま(構)いて後生ざんまい及五十ニ候まで無用たるべき事。付、人ハ二、三、十、廿にても死候。不至四十・五十死候て、後生如何と可存候。其時ハ二―三子にて死たると可存、ニー三子ハ後生不可存也。

 

【三】一、生中、ばくち(博打)・双六、惣別かけ(賭)のあそび無用候。棊(碁)・将碁(棋)・平法・うたひ(謡)・まい(舞)の一ふしにいたるまで、四十までハ無用候。何たるげいのう(芸能)成共、及五十候者くるしからず候。松原あそび・川かり・月見・花見、惣而見物事、更以無用候。上手ノまい等、上手の能などハ、七日のしばい(芝居)に二日計ハくるしからず候。縦(たとい)仏神ニまいり(詣)候とも、小者一人にて参候へ。慰がてらニハ、仏神もなうじう(納受)有まじき事。

 

【四】一、四十までハ、いさゝかの事も、ゑよう(栄耀)なる事無用候。惣而我ぶんざい(分際)より過たる心もち・身持、一段悪事候。併(しかしながら)商事・れうそく(料足)まうけ候事ハ、人にもおとらぬやうにかせぎ候ずる専用候。それさへ以、唐・南蛮にて人のまうけたるをうら山敷おもひ、過分に艮(銀)子共やり、第一船をしたて、唐・南蛮にやり候事、中々生中のきらい事たるべく候。五百め・一貫めづつも、宗怡などの中ニ候て遣候事ハ、宗怡次第候。それも弐貫めならバ、二所ー三所にも遣候へ。一所にハ無用候。其外之事、何事も我ぶんざいの半分ほどの身もち、其内にも可然候。たとい、世ハ余めり入たるハ悪候間、少ハさし出候へと、人の助言候共、中々さし出まじく候。及五十候までハ、いかにもひっそく(逼塞)候て、物ずき・けつこうずき・茶のゆ・きれいずき・くわれい(華麗)なる事、刀・わきざし(脇差)・いしやう(衣装)等、少もけつこう(結構)にて、目に立候ハ、中々無用候。第一、武具更以入事候。たとい人より被下たるいしやう・刀成共、売候て艮子になし候て、もち候べく候。四十まで、木綿き物、しぜんあら糸・ふし糸の織物などの、少もさし出候ハで、人のめにたゝきる物ハ、くるしからず候。家もしゆり(修理)ゆだん(油断)なく、かべがき(壁垣)もなわ(縄)のくちめ(朽目)計(ばかり)ゆいなをし候へ。家屋敷作候事、曾以無用候。及五十二候てハ、其方れうけん(料見)次第候。何たる事二付我ちからの出来候てハ、如何様にも分別たるべく候。それとても多分之人皆死する時に、びんぼう(貧乏)する物候。我ちから才覚にて仕出し候ても、死期に成候までもちとゝけたる人は十人ー廿人に一人もなき事候。況親よりとり候人、やがてミなになし、後にびんぼう(貧乏)にきわ(極ま〕り死するものにて候。其分別第一候事。

 

【五】一、四十までハ、人をふるまい、むさと人のふるまいに参りまじく候。一年に一度-二度親兄弟親類ハ申請、親類中へも可参候。それもしげしげと参候ずること無用候。第一夜ばなし計事、とかく慰事ニ、兄弟衆よび候共参まじき事。

 

【六】一、人の持たる道具ほしがり候まじく候。人より給候共、親類衆之外之衆のを、少ももらい取まじく候。我持たる物も出し候まじく候。我持ちたる物も出しまじく候。よき物ハたしなミ置、人にも見せ候まじく候事。

 

【七】一、生中、知音候ずる人、あきないずき、所帯なげきの人、さし出ぬ人、りちぎ慥(たしか)なる人、さし出ず心持よくうつくしき人にハ、ふかく入魂(じっこん)もくるしからず候。又生中知音仕まじき人、いさかいがちの人、物とが(咎)め候人、心底あしくにくちなる人、中言をゆふ人、くわれいなる人、大上戸、うそつき、官家ずきの人、ざつとう(雑踏)、しやミせん・小うたずき、口がましき人、大かたかやう之人々、同座にも居まじき事。付、平法人。

 

【八】一、生中、むさと用もなき所へ出入、よそあるき無用候、但殿様(黒田)へしぜんしぜん何ぞ御肴之類不珍候共、あわび・鯛、左様之類成共、新をもとめさし出可申候。井上周防殿・小川内蔵殿へハ、是又しぜん可参候。其ほかは年始・歳末各なミたるべく候。とかく内計ニ居候て、朝夕かまの下の火をも我とたき、おきをもけし、たき物・薪等もむさとたかせ候ハぬやうに、家の内・うら等、ちりあくた成共取あつめ、なれのきれ、ちりのミじかきハ、すさ(苆)にきらせ、ちりもながきはなわになわせ、き(木)のきれ竹のおれ、五分までハあつめ置、あら(洗)はせ、薪・かゝり(篝)・焼物にも可仕候。紙のきれハ五分・三分も取あつめ、すきかへし(漉返)可仕候。我々仕たるやうに分別、いさゝかの物も、つゐ(費)へにならぬやうに可仕事。

 

【九】一、常住、薪・たき物、二分ー三分のざつこいわし(雑魚鰯)、あるひは町かい、浜の物、材木等かい候共、我と出候てかい、いかにもねぎ(値切)りかい候て、其代たかさやすさを能おぼへ、其後にハ、誰にかハせても、其代のやすさたかさを居ながら知る事候。さ候へバ、下人にもぬかれ候まじく候。寿貞(神屋)ハ生中薪・焼物われと聖福寺門之前にて被買候。人の所帯ハ、薪・すミ(炭)・油と申候へ共、第一薪が専用候。たきやうにて過分ちがい候。一日にめし(飯)・しる(汁)にいかほどゝ、われとたきおぼえ、いかほど成共、其分下女に渡候てたかせ候へ。但壱月にいかほどのつもりさん(算)用候ずる事。但たきゝ・たき物も、なま(生)しきとく(朽)ちたるが悪候。ひ(干)たる薪をかい候へ。薪より柴・はぎこぎ(端木小木カ)の類が可然候。柴などよりかや(茅)焼物が徳にて候。酒を作、ミそ(味噌)をにさせ候者、米一石に薪いかほどにてよきと、われとたきおぼえ、薪何把に、け(消)し炭いかほどゝけしおぼえ候て、其後其さん(算)用にたかせ、すミをもけさせ請取候べく候。いづれの道にも、我としんらう(心労)候ハずバ、所帯ハ成まじく候事。

 

【十】一、酒を作り、しち(質)を取候共、米ハ我ともはかり、人に計せ候とも、少も目もはなさず候て可然候。かたかけにて何たる事もさせ候まじく候。下人・下女にいたるまで、皆みなぬす(盗)人と可心得候。酒作候者、かし(淅)米置候所を作、じやう(錠)をさし、こわいい(強飯)もぬすむ物ニ而、さまし候時、ゆだん(油断)仕まじく候。しちを取候共、させらぬ刀・わきざし(脇差)・武具以下、家やしき(屋敷)人の子共、させらぬ茶のゆ道具、田地など不及申候。惣別人共あまためしつかい候事無用候。第一、女子多く置候事無用候。女房衆あるかれ候共、下女二人・おとこ壱人之外、曾以無用候。其方子共出来候者、いしやうなどうつくしき物きせ候まじく候。是又よそにあるき候共、おち(御乳)ニ下女壱人相そへあるかせ候へ。さしかさ(差傘)・まほり(守)刀等もたせ候事、中々無用候。ちいさきあミかさ(編笠)こしらへ、きせあるかせ候べく候事。

 

【十一】一、朝夕飯米一年に一人別壱石八斗に定り候へ共、多分むし物あるひハ大麦くわせ候へバ、一石三斗ー四斗にもまハし候べく候。ミそは壱升百人あてニ候へ共、多候而、百十人ほどにても一段能候。塩ハ百五十人にて可然候。多分ぬかミそ五斗ミそ無油断こしらへくわせ候へ。朝夕ミそをすらせ、能々こし候て汁に可仕候。其ミそかすに塩を入、大こん・かぶら・うり・なすび・とうぐわ・ひともじ(葱)、何成共、けづりくず(削屑)・へた・かわのすて候を取あつめ、其ミそかすニつけ候て、朝夕の下人共のさい(菜)にさせ、あるひハくきなどはしぜんにくるしからず候。又米のたかき時ハ、ぞうすい(雑炊)をくわせ候へ。寿貞一生ぞうすいくわれたると申候。但ぞうすいくわせ候に、先其方夫婦くい候ハでハ不可然候。かさにめしをもりくい候ずるにも、先ぞうすいをすハれ候て、少成共くい候ハずバ、下人のおぼえも如何候。何之道にも、其分別専用候。我々母なども、むかしハ皆其分にて候つる。我々も若き時、下人同然のめし計たべ候つる事。付、あぢすき無用事。大わたぼうし無用事。

 

【十二】一、我々つかい残たるものもとらせ候て、宗怡へ預ケ、如何様にも少づゝ商事(あきないごと)、宗怡次第ニ可仕候。其内少々請取、所帯ニ少も仕入、たやすきかい物共候者、かい置候て、よそ(他所)へ不遣、商売あるひハしちを取、少は酒をも作候て可然候、あがり口之物にて、たかきあきない物、生中かい候まじく候。やすき物ハ、当時売候ハねども、きづか(気遣)いなき物候。第一、しちもなきに、少も人にかし候まじく候。我々遺言と申候て、知音・親類にもかし候まじく候。平戸殿(松浦)などより御用共ならバ、道由・宗怡へも談合候て、可立御用候。其外御家中へハ少も無用候。

 

【十三】一、人ハ少成共もとで(元手)有時に所帯に心がけ、商売無油断、世のかせぎ専すべき事、生中之役にて候。もとでの有時ハゆだんにて、ほしき物もかい、仕度事をかゝさず、万くわれい(華麗)ほしいまゝに候て、やがてつかいへらし、其時におどろき、後くわい(悔)なげき候ても、かせぎ候ずる便もなく、つましく候ずる物なく候てハ、後ハこつじき(乞食)よりハあるまじく候。左様之身をしらぬうけぬものハ、人のほうこう(奉公)もさせず候。何ぞ有時よりかせぎ商(あきない)、所帯はくるまの両輪のごとく、なげき候ずる事専用候。いかにつましく袋に物をつめ置候ても、人間の衣食ハ調候ハで不叶候。其時ハ取出つかい候ハでハ叶(かなう)まじく候。武士ハ領地より出候。商人はまうけ候ハでハ、袋に入置たる物、即座に皆に可成候。又まうけたる物を袋にいかほど入候共、むさと不入用につかひへらし候者、底なき袋に物入たる同前たるべく候。何事其分別第一候事。

 

【十四】一、朝ハ早々起候て、暮候者則ふせり候へ。させらぬ仕事もなきに、あぶら(油)をついやし候事不入事候。用もなきに夜あるき、人の所へ長居候事、夜るひるともに無用候。第一、さしたてたる用は、一刻ものばし候ハで調(ととのえ)候へ。後に調候ずる、明日可仕と存候事、不謂事候。時刻不移可調事。

 

【十五】一、生中、身もちいかにもかろく、物を取出など候ずるにも、人にかけず候て、我と立居候ずる事。旅などにてハ、かけ(懸)硯・ごた袋等われとかたげ候へ。馬にものらず、多分五里ー三里かち(徒)にて、とかく商人もあ(歩)よミならひ候て可然物候。われら若き時、馬に乗たる事無候。道之のりいかほどゝおぼえ、馬ちん(賃)いかほど、はたごせん(旅籠銭)・ひるめし之代・船ちん、そこそこの事書付、おぼえ候へバ、人を遣候時、せんちん(船賃)・駄ちん、つかいを知る用候。宿々の丁(亭)主の名までもおぼえ候ずる事。旅などに人の商物事伝(ことづて)候共、少も無用候。無余儀知音・親類不遁事ならば、不及是非候。事伝物者少も売へ(剥)ぎ・買へぎ仕まじき事。

 

【十六】一、いづれにても、しぜん寄合時、いさかい・口論出来候者、初めよりやがて立退、早々帰り候へ。親類・兄弟ならば不及是非候。けんくわ(喧嘩)など其外何たる事むつかしき所へ出まじく候。たとい人之無躰をゆいかけ、少々ちじよく(恥辱)ニ成候とも、しらぬ躰にて、少之返事にも及候ハで、とりあい候まじく候。ひとのひけうもの(卑怯者)・おくびやうもの(臆病者)と申候共、宗室遺言十七ケ条之書物そむき候事、せいし(誓紙)之罰如何候由可申候事。

 

【十七】一、生中、夫婦中いかにも能候て、両人おもいあい候て、同前所帯をなげき、商売に心がけ、つましく無油断様に可仕候。二人いさかい中悪候てハ、何たる事にも情ハ入まじく候。所帯ハやがてもちくづれ候ずる事。又我々死候者(はば)、則其方名字をあらため、神屋と名乗候へ。我々心得候而、島井ハ我々一世にて相果候。但、神や不名乗候者、前田と名乗候てくるしからず候。其方次第候事。付、何事ニ付ても、病者にてハ成まじく候。何時成共、年中五度ー六度不断灸治・薬のミ候ずる事。

  以上

 

右十七ヶ条之内、為一(いつとして)非宗室(の)用(に)候。其方為生中守令遺言候。夫(それ)弓矢取之名人ハ、先ま(敗)くべき時之用心手だてを第一ニ分別を極め、弓矢を被取出と承候。縦(たとい)まけ候てモ、我国をも不失、人数をもうたせず候。無思案之武士ハ、少も無其分別、むさと人之国をも取べきと計(ばかり)心得、取かゝり、まけ候へバ、持たる国まで被取、身をも相果と申候。つれづれぐさ(徒然草)に双六之上手の手だてにかたんと打べからず、まけじと打べしと書置候。是其理(ことわり)也。其方事、先所帯をつましく、夜白(昼)心がけ、其上にて商賣無油断可仕候。若ふと悪艮(銀)子もうしない候共、少也共所帯に仕入、残たる物にて、又取立候事も可成候。艮子まうけ候ずると計心得、少もしよたいに不残、ひしき物をもかい、仕度事をも存分のまゝ調候者、一日之内ニ身上相果可申候。とかく先すりきりはて候ずる時の用心分別専用也。双六上手之手だておもひあわせ候へ。乍恐、右之十七ヶ条、為其方ニハ太子之御憲法にもおとり候まじく候。毎日ニ一度モ二度モ取出令披見、失念候まじく候。於同心、此内一ヶ条も生中相違仕まじきと宝印(牛王宝印)之うらをかえし、誓詞候て可給候。拙者死候て、棺中ニ入べきため也。仍而遺言如件。

 

慶長拾五甲戌正月十五日        虚白軒 宗室(花押)

   神屋徳左衛門とのへ

 

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人物叢書 島井宗室 田中健夫著より