今日は学生の「間違い」のお話。
教師であれば、日常的に学生の間違った日本語を直すわけです。
文法的な間違い、語彙の間違いはもちろんですが、
運用上のエラーも、しっかりと訂正する必要があります。
たとえば
①「先生、今日はきれいですね/かっこい いですね」
②「先生、 お疲れさまでした 」
③「先生、 さすがですね」
一見、間違えがないようですが、
どれも日本人が聞くと「え!?」となってしまう、部分があります。
しかもこういうのは、人格まで誤解されてしまうエラーになってしまい、
日本社会にいる外国人にとっては、マイナスに作用します。
上に挙げた例も
①「は」は対比と強調を含むので、ほかの時はだめだ、という含意が発生します。
しかし、文自体が微妙ですよね。
日本人なら「今日はお出かけ?」なんていう風に遠まわしにほめるのでしょうか。
②「お疲れさまでした」という表現は、仕事の人間関係に限られます。
学生は教師と仕事を一緒にしているわけではないので、言ってはいけません。
先生の中には「大丈夫だよ」とおっしゃる方もいるようで、正直言うと
フォローに困ります
③目上の人に対して「さすが」とほめるのは、失礼です。
まあ、クラス担任のように、学生にとってなじみのある先生なら、また別なのかもしれませんが、
たとえば大学の先生に対して、
「さすが、専門家ですね」なんて言ってしまったら、
もう2度と会ってもらえないかもしれません。
そして、もうひとつ声を大にして言いたいエラーがあります。
それは相槌としての「うん」
教師:○○さん、1番の問題、できましたか?
学生:うん
教師:
特に中国語母語話者に多いですね。
というのも中国語の相槌は「ng」(ん~)というので、
日本語にも「うん」があるから、転用してしまうのでしょう。
ほかにも、顔なじみの先生だから、という甘えもあるのかもしれません。
しかし、これは厳しく指導すべきです。
なぜならこういう癖は、大事な場面でぽろっと出てしまうからです。
たとえば試験の面接など、フォーマルな会話が要求される場面です。
先輩先生から、こんなお話を聞いたことがあります。
その方は大変優秀な中国の学生で、
日本語も堪能だったと言います。
そこで某日系大企業の面接を受け、いいところまでいったのですが、
あえなく落選・・・
人事担当者に聞いたわけではないので、はっきりしませんが、
どうやら面接の受けこたえで、
「うん」
と言ってしまったようです。
日本人同士でも
目上の人につい「うん」と受け答えしてしまったら
大抵はあわてて、 「『うん』なんて言ってしまって、失礼しました」
と、自ら訂正しますよね。
それだけデリケートになるべきことなのです。
ですから、私は普段はおかしなヒャクゴウ先生ですが、
学生が「うん」とでも言おうものなら、
「うんじゃない」
と注意します。
ここで、少し語調を強めるのがポイント。
にこにこ顔で注意しても効果はありません。
「うん」という相槌で、相手がどれだけ不快になるかを、
今のうちに自覚してもらいたいのです。
間違えられるのも、日本語学校だからこそ。
そこを出れば、待ったなしの日本社会。
ただでさえ不利な立場にある外国人は、
非常に敏感にならないと、いろいろな意味で締め出されてしまうのです。
また、それは偏見という問題にもつながるおそれもあります。
やたらと学生の間違いを訂正しすぎるのも、どうかとは思いますが、
こういう細かいけれど社会的なエラーにつながるものは、
しっかり訂正していくのが日本語教師の仕事なのだと思うのです。