恋愛小説、青春小説を書き続けている畑野智美さんですが、しばしば社会問題的なテーマを取り上げることがあります。

 

「罪のあとさき」では少年犯罪を、「消えない月」ではストーカーを、「神さまを待っている」では貧困女子を描き、温かい恋愛小説というよりリアルで怖い小説になっていました。

 

本作「ヨルノヒカリ」で描かれているのは”多様性”。 自分は普通ではないと感じている男女の物語でした。

 

いとや手芸用品店を営む木綿子は、35歳になった今も恋人がいたことがない。 台風の日に従業員募集の張り紙を見て、住み込みで働くことになった28歳の光は、母親が家を出て以来“普通の生活”をしたことがない。

 

そんな男女2人がひとつ屋根の下で暮らし始めたから、周囲の人たちは当然付き合っていると思うが……。 不器用な大人たちの“ままならなさ”を救う、ちいさな勇気と希望の物語。 (BOOKデータベースより)

 

主人公は、恋愛感情が理解できないという35歳の糸谷木綿子と、中学の卒業式の日にシングルマザーの母親が家を出て行ってしまった28歳の夜野光。 2人の視点で交互に描かれていきます。

 

ひょんなことから木綿子の手芸用品店に住み込みで勤め、同居するようになった2人。 徐々にお互いのことを大切に思うようになっていきます。

 

しかし木綿子も光も、自分は普通ではないと思うがゆえ、正直に自分の気持ちが伝えられないのです。 そんな中、ある事件が起こって・・・

 

正直、上記のリアルで怖い3作品があったので、”多様性”が壁になって2人の関係が続かないのではないかと心配して読み進みました。

 

でも、2人のお互いを大事に思う気持ちが上回ったようですね。 大切なのは普通ではなくても幸せだと思う関係を築けば良いのだと思います。

 

回りの人々にも恵まれました。 成瀬一家はもちろん、司さんは”多様性”をふまえて生きることを示してくれたし、じいちゃんが別れ際に言った言葉も印象的でした。

 

「自分のことを大事に思ってくれる人たちのことを考えて、生きていきなさい。 それで、自分のことも大事にしなさい」

 

木綿子と光が出会ってからまだ1年足らず。 これからもっと辛いことがあるかもしれませんが、この2人なら大丈夫と思えた作品でした。 お勧め。