経済ジャーナリストでもあり、リアルな社会派ミステリを得意とする相場英雄さんの作品。 警視庁継続捜査班の田川警部補を主人公とする田川シリーズの三作目です。

 

私はそれほど多く相場作品を読んでいないのですが、「震える牛」「ガラパゴス」と続く田川シリーズは非常に面白く、特に日本の労働環境の問題を提起しつつ骨太のストーリーが描かれた「ガラパゴス」は傑作だと思います。

 

本作で社会問題として提起されているのは、外国人技能実習生の過酷な労働環境、そして日本の経済的衰退でした。

 

秋田県能代市で、老人施設入居者85歳の死体が近隣の水路から発見された。 雪荒ぶ現場、容疑者として浮上したのは、施設で働くベトナム人アインである。 アインは、重篤なガンを患っていた入居者に請われて、自殺を幇助したとの自供を始める。

これで解決か……。 捜査官らは安堵したが、ひょんなことから捜査に加わった警視庁継続捜査班の田川信一は、死体の「手」に疑いを抱いた。 捜査線上にあがったのは、流通業界の覇者として君臨する世界的IT企業サバンナだった――。 (BOOKデータベースより)

 

例によって実名の想像がつくような書き方をして、企業の内情を暴露しています。

 

サバンナ → アマゾン

オックスマート → イオンモール

YOYO CITY → ZOZO TOWN

 

2012年刊行の「震える牛」では、地元商店街をシャッター通りに追い込む大型ショッピングセンター進出問題が語られました。

 

2020年の本作では、世界的ネット通販の巨大企業サバンナが登場。 顧客ニーズが地元商店街から、大型ショッピングセンター、さらにネット通販へと変化していくのは致し方ないのでしょう。

 

これと並行して語られるのがデフレ・円安による日本経済の衰退です。 ラスト近く、ベトナムからの外国人技能実習生・アインの言葉が印象的でした。

 

「日本人、とっくにお金持ちじゃなくなった。 日本はずっと給料が下がり続けているよ。 OECDの調査でも結果が出ている。 私、ベトナムの後輩たちに言った。 もっと調べて、慎重に選んでほしいって」

 

今年に入ってGDPがドイツに抜かれ、インドにも抜かれそうとか、実質賃金がずっと下がり続けているとか、ここで語られている傾向はずっと続いているようですね。

 

ミステリとしては自殺幇助事件にかかわった田川が、殺人ではないかと疑いを持ち、地道な捜査を展開します。 今回の相棒はキャリアの樫山順子警視。

 

二人のコンビネーションや、終盤での意外な展開など読みどころはありますが、本作はやはり社会派の問題提起が中心だったようです。