震える牛 (小学館文庫)/相場 英雄
 
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作者の相場英雄さんは、1967年生まれ。 1989年時事通信社に入社して経済部記者として、日本銀行や東京証券取引所などを担当しました。 2005年に「デフォルト 債務不履行」で経済小説大賞を受賞。 2006年には時事通信社を退社して、作家/経済ジャーナリストとして活躍しています。
      
警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。 当時の捜査本部は、殺害された二人に面識がなかったことなどから、犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。
     
しかし「メモ魔」の異名を持つ田川は関係者の証言を再度積み重ねることで、新たな容疑者をあぶり出す。 事件には、大手ショッピングセンターの地方進出に伴う地元商店街の苦境、加工食品の安全が大きく関連していた。現代日本の矛盾を暴露した危険きわまりないミステリー。あ(文庫裏紹介文)
 
久々にガチで、問題提起型の社会派ミステリーを読みました。
    
少し前に再読した宮部みゆきさんの「火車」 も、カード社会の暗部をあらわにした社会派ミステリーの傑作でしたが、「火車」の場合はむしろ一人の女性の人生を周囲の証言によって浮き上がらせるという圧巻の表現手法に驚かされました。
      
この「震える牛」で扱うのは、地元商店街をシャッター通りに追い込む大型ショッピングセンター進出問題と、加工食品偽装の驚くべき手口。 未解決殺人事件を刑事が洗い直す過程で、背景にあるこれらの問題が浮き上がってくるのです。
    
松本清張型の足で稼ぐ捜査が丹念に描かれますが、ミステリーのプロットとしてはもう一息というところでしょうか。 サブ主人公格の記者・鶴田の役割が、その動機も含めて事件そのものに、もっとかかわっていれば緊張感が増したかも。
     
しかしこの小説、そういう不満を吹き飛ばすような問題提起のリアリティと、それを告発する迫力があります。
    
オックスマート → イオンモール
クロキン → ユニクロ
アルプス・スポーツ → アルペン
    
など、ほとんど実名がわかる書き方をしているのに、その内情の暴露の仕方にまったく遠慮が見られません(まあフィクションも混じっているとは思いますが・・・)。 さすが、現役経済ジャーナリストと言うべきでしょうか。
     
この小説が刊行されたのは2012年ですが、2013年に阪急ホテルのメニュー偽装問題を始めとして、様々な食品偽装が発覚したのは記憶に新しいところです。 そういう意味でも先見性のある作品だったのでしょう。 リアルな社会派小説を読んでみたい方にお勧め。