この曲が作曲された1802年頃、ベートーヴェンは年々悪化する難聴に悩まされ、絶望感から「ハイリゲンシュタットの遺書」まで書いて自殺を考えていました。
しかし、彼は強靭な精神力でこの苦悩を乗り越え、1804年の交響曲第3番「英雄」を皮切りに素晴らしい作品を次々と作曲し、ここからの10年間は”傑作の森”と呼ばれることになるのです。
「テンペスト」という通称は、この楽曲の解釈について尋ねられたベートーヴェンが「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」と言ったという逸話から来ています。
テンペストとは嵐や暴風雨の意味で、シェイクスピアの戯曲にも船が嵐で難破するシーンがありますし、この頃のベートーヴェンの葛藤と劇的な曲の性格からすると、いかにも相応しい感じがします。
しかし、先日読んだ「ベートーヴェン捏造」によると、これはシンドラーがベートーヴェンを神格化するために行った多くの捏造のうちの一つだったのです(゚Д゚;)
曲は3つの楽章から構成され、ベートーヴェンの内面の葛藤を表すごとく劇的な第1楽章、しばしの休息のような第2楽章、一瞬も立ち止まることのない第3楽章と、息の詰まるような緊迫感に溢れた曲です。
↓ウクライナ出身ヴァレンティーナ・リシッツァのピアノで第1楽章を。
↓第2楽章。 落ち着いた雰囲気ですが、どこか寂しく切ない。
↓最も有名な第3楽章。 華麗で切ないフレーズが途切れなく続きます。
エミール・ギレリス(ピアノ)
「鋼鉄のピアニズム」と通称される強靭なタッチのギレリスですが、この曲ではロマンチックな詩情や切なさを感じさせて素晴らしい演奏です。