fubukiさんの記事で知ったノンフィクションです。 クラシックファンの私には見逃せない内容でした。

 

現代に語り継がれるベートーヴェン像は、秘書により捏造されていた!? 「会話帳改竄事件」の真相に迫る、衝撃的な歴史ノンフィクション。「会話帳」とは、聴力を失ったベートーヴェンが周囲の人とコミュニケーションを取るために用いた筆談用ノートのこと。


100年以上にもわたり多くの人々を騙し続けた「犯人」の名は、アントン・フェリックス・シンドラー。 音楽家でもあり、誰よりもベートーヴェンの近くで忠誠を誓い、尽くした人物である。 なぜ、何のために彼は改竄に手を染めたのか? 音楽史上最大のスキャンダルの「犯人」・シンドラーの目を通して、19世紀の音楽業界を辿る。 (BOOKデータベースより)

 

楽聖とも称されるベートーヴェンにはとても多くのエピソードが残されています。 個人的に印象に残っているものから順に挙げると・・・

 

①第九の初演終了後、観衆は熱狂的な拍手を贈ったが、既に聴力を失っていたベートーヴェンは演奏が失敗したと思い、指揮台から観客に振り向くことが出来なかった。 見かねたアルト歌手がベートーヴェンの袖を引いて観衆の方に振り向かせた。

 

②交響曲第5番「運命」冒頭の「ジャジャジャジャーン」というモチーフについて、ベートーヴェンは「運命はこのように戸をたたく」と述べ、それが交響曲の通称になっていった。

 

③交響曲第3番「英雄」は、当時民衆の英雄だったナポレオンに献呈されたが、ナポレオンが皇帝に即位したと聞いたベートーヴェンは「奴も俗物に過ぎなかったか」と激怒し、献辞を破り捨てた。

 

④ベートーヴェンは、当時発明されたメトロノームを気に入っていて、交響曲第8番の第2楽章はメトロノームの「タタタ」というリズムから着想を得た。

 

⑤ピアノソナタ第17番「テンペスト」。 この楽曲の解釈について尋ねられたベートーヴェンが「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」と言い、それがこのピアノソナタの通称になっていった。

 

このうち①③は本当にあったことのようですが、②④⑤はベートーヴェンの秘書・シンドラーが捏造し、彼の著作「ベートーヴェン伝」にも書き記した嘘でした。

 

嘘が判明したのは1977年に東ドイツで開催された「国際ベートーヴェン学会」。 しかし、その嘘は既に100年以上かけて浸透し、今でも交響曲第5番は(少なくとも日本では)「運命」と呼ばれているし、ピアノソナタ第17番は「テンペスト」と呼ばれているのです。

 

本作は、シンドラーの生い立ちから、ベートヴェンとの出会い、秘書としての奉仕、そしてベートーヴェンの死後にはベートーヴェンの神格化のため改竄に手を染める様子が描かれます。

 

特に、シンドラー自身の視点で描かれているため、背徳感を感じつつも会話帳を改竄することで理想のベートーヴェンとの会話に喜びを感じていくという描写は生々しかったですね。

 

音楽を志したシンドラーが一生かけてもかなわない天才に出会ってしまい、その音楽に身も心も支配されてしまった故の悲劇なのでしょうか・・・

 

クラシック音楽ファンなら必読のノンフィクションだと思います。

 

↓メトロノームから着想し作曲(嘘:実際は作曲よりメトロノームの発明が後)