千早茜さんは1979年生まれ北海道江別市出身。 立命館大学文学部を卒業後、2008年に「魚神」で小説すばる新人賞を受賞して作家デビューしました。

 

その後、泉鏡花文学賞、島清恋愛文学賞など数々の賞を受賞した後、本作で2022年下半期の直木賞を受賞しました。 小川哲さんの「地図と拳」と同時受賞でしたね。

 

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。 天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。

 

しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。 生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇! (BOOKデータベースより)

 

男社会である銀山で生きる女性・ウメの人生の一代記にして骨太の大河小説。

 

最近直木賞を受賞した河﨑明子さんの「絞め殺しの樹」(これは2022年上期の候補作で今年の受賞作ではありませんが)を思い出しました。 これも骨太の女性一代記でした。

 

本作の冒頭、貧しい百姓だったウメの家族が村の米を盗んで夜逃げするシーンが壮絶。 一人だけ追手から逃れた幼いウメは、山師・喜兵衛に拾われ、銀山で暮らすことになります。

 

家族を失っても逞しく生きるウメの生存本能は凄い。 生来の夜目が利く性質を生かして、やがて銀山の坑道で銀堀たちにも一目置かれる存在になっていくのです。

 

しかし、年月が経ち大人の体になっていくウメは、女であることで坑道を追い出され、女であることによる悲哀も味わうことになって・・・・

 

ウメの人生を追って行くストーリーがスリリングなのは、他の登場人物が魅力的なことも理由でしょう。 銀の鉱脈がわかる天才山師・喜兵衛、ウメに思いを寄せる銀堀・隼人、喜兵衛に仕える謎めいた人物・ヨキ、銀堀の妻・おとよ、混血児・龍など多彩です。

 

さらに物語の中心をなす間歩(坑道のこと)の底なしの闇の描写、間歩から外に出た時の明るさ、鮮やかな色彩の自然描写などなど、普段使わない漢字を交えての文章が卓越していましたね。

 

多くの悲しみを乗り越えて生き抜いた女性の一代記。 圧倒的でした。 お勧め!