長岡弘樹さんの作品は、最初に短編集「傍聞き」を読んで、そのトリッキーな謎解きと人間ドラマの両立に驚愕。 その後、「教場」「線の波紋」「教場2」と読んできましたが、残念ながら「傍聞き」に並ぶものはありませんでした。

 

今回読んだのは、「傍聞き」と同じく独立した短編集で、長岡さんのデビュー作です。

 

物忘れのひどくなってきた老人が、嫁から預かった金を紛失。 だがこのことで、老人は同居している彼女の気持ちに触れる――表題作。 市役所管理の駐車場で人が転落死した。 事件は役所内の人事に思いもよらぬ影響を与えた――「プレイヤー」。

 

日常に起きた事件をきっかけに浮かびあがる、人間の弱さや温もり、保身や欲望。誰しも身に覚えのある心情を巧みに描きだした5編。 2008年度日本推理作家協会賞受賞作家のデビュー作、待望の文庫化。 (文庫裏紹介文)

 

「陽だまりの偽り」、「淡い青の中に」、「プレイヤー」、「写心」、「重い扉が」という5編が収録されています。

 

各編に共通するのは、主人公の”保身”でしょうか。 自分の物忘れを隠そうとする老人。 昇進間近の地位を守ろうとする管理職。 闇金融からの借金を返そうとする若者。 自分を守るために嘘をついたり、犯罪を犯そうとしてしまいます。

 

その結果、主人公はさらに追い詰められることになるのですっが、ラストで思いもかけない真相が明らかになり、人生の機微が浮かび上がります。 ある登場人物の優しさであったり、時には予想もしない人物の悪意であったり。

 

一番良かったのは、やはり表題作の「陽だまりの偽り」かな。 認知症で家に閉じ込められた老女が登場し、メインのストーリーには関与しないのですが、最後の最後で主人公との対比が効果を上げています。

 

「傍聞き」と比べるとストーリーの意外性では一歩譲りますが、全体的には温かい人間ドラマが描かれていて、同じ方向性を持った短編集だと思います。 私の好みの作品でした。 お勧め。