「室町無頼」が面白かったので、垣根涼介さんの歴史小説をもう一作。 「光秀の定理」を読みました。

 

「君たちに明日はない」シリーズなど、現代小説を書いていた垣根さんが初めて執筆した歴史小説がこれで、「室町無頼」よりさらに面白かった!

 

「君たちに明日はない」シリーズの最後のほうはちょっとレベルが低下してると思ってたんですが、執筆時期の重なっているこちらの作品に集中してたんですね・・・・・・と思わせるほど面白かったです。

 

永禄三(1560)年の京。 牢人中の明智光秀は、若き兵法者の新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息と運命の出会いを果たす。 光秀は幕臣となった後も二人と交流を続ける。

 

やがて織田信長に仕えた光秀は、初陣で長光寺城攻めを命じられた。敵の戦略に焦る中、愚息が得意とした「四つの椀」の博打を思い出すが―。 何故、人は必死に生きながらも、滅びゆく者と生き延びる者に分れるのか。 革命的歴史小説、待望の文庫化! (文庫裏紹介文)

 

NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」と同様、明智光秀をクローズアップした歴史小説です。 歴史的事実は正確に書かれていますが、ここに架空の登場人物として、若き兵法者・新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息を加えています。

 

さらに物語の核となっているのが、「数学」そしてそこから導き出される「ものの見方」です。

 

破戒僧・愚息が往来で、足軽たちを相手にやっていた賭け事は次のようなもの。

1.愚息が4つのお椀を伏せて置き、その中の1つに石ころを入れる

2.足軽たちは4つのお椀の中から1つ選び、金銭を賭ける

3.愚息は残った3つのお椀の中で、空のお椀を2つ開ける

4.伏せてあるお椀は2つで、足軽たちが選んだものと、選ばなかったもの

5.愚息はこう言います「2つに1つ、もう一方に鞍替えするか、どうしますかな?」

 

2つに1つなのだから、変えても変えなくても確率は50%と思うかもしれませんが、この博打、続けるうちに愚息の圧倒的勝利となっていきます。 種も仕掛けもありません。

 

これ実は「ベイズの条件付き確率」と言って、最新のコンピュータ技術にもつながる重要な定理なのです。 上記の種明かしは、物語の後半で丁寧になされるのですが、この定理が城攻めの戦略やさらには戦国時代での「生き方」にまでつながっているのが凄い。

 

数学の定理をこれほど上手く物語に取り込んだ小説は他に思いつきません。

 

愚息、新九郎、光秀に、信長も加えた人物像の描き方も秀逸。 「本能寺の変」から十五年後に愚息と新九郎が久しぶりに会い、光秀と信長について語り合うシーンはなんとも言えない味わいがありました。

 

お勧めです。(数学的知識はまったく必要ありません)