このミス創刊30周年記念のベストオブベストで1位に輝いた伝説的作品。 1989年に執筆された山口雅也さんのデビュー作です。 いわゆるゾンビテーマのミステリーで、同じテーマで一昨年のミステリ三冠を達成した「屍人荘の殺人」と比較しようと読んでみました。

 

ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った。 この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。 死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか。 自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるか。 (文庫裏紹介文)

 

ゾンビミステリと言いながら、本作も「屍人荘~」も非常に精緻に構築された本格ミステリです。 しかし、あくまでも舞台装置としてゾンビを描いている「屍人荘~」に対して、本作はゾンビの存在が動機やトリックに本質的にかかわっているので、解決時のカタルシスが圧倒的に凄まじかったです。

 

ゾンビ設定という極端なものを導入したからにはここまでやって欲しいですね。 「屍人荘~」を読んだときの、なんとなく物足りなかった感じはこれだったのか・・・
 

一方、これほどの作品でありながら広く読まれておらず、マニアックな存在にとどまっているのは、その読みにくさでしょう。 ややラノベ的な「屍人荘~」とは比較になりません。

 

・文庫本で650ページという長さと、複雑なプロット

・翻訳調の文章と、米国の霊園というなじみのない舞台

・登場人物リストには三十数人、しかもジョン、ジェイムズ、ジェイソンなど紛らわしい

・米国の葬儀についての薀蓄が長い

 

それでも、これらに耐えつつ600ページ付近まで読み進めば、他のミステリとはまったく異なるロジックでの本格ミステリの醍醐味をたっぷり味わうことができるでしょう。 しみじみとしたラストシーンも強く印象に残りました。

 

本格ミステリファンには絶対お勧め。 じっくりと腰を据えて読みましょう。