辻村深月さんは、2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞して作家デビューしました。 この作品から、若者の心情をきめ細かく描くという特徴は発揮されていましたね。

 

ただ、私にはこのデビュー作も2作目の「子どもたちは夜と遊ぶ」も、文章が生硬な感じがして少し読みにくかった。 正直、こんな人気作家になるとは思いませんでした。

 

しかし、3作目からの「凍りのくじら」、「ぼくのメジャースプーン」、「スロウハイツの神様」、「名前探しの放課後」という作品群は素晴らしい出来で驚かされました。 その後は、作品の幅も広げていって、今では若手女流作家のトップランナーと言って良いでしょう。

 

そんな辻村作品の私的ベスト3を選ぶとすると。

 

第1位: 「スロウハイツの神様」 (2007年)

辻村さんの初期、最も勢いのあった作品群の頂点でしょう。 前半はクリエーターの卵たちが暮らすスロウハイツでの群像劇。 これも読み応えありますが、これは後半のあっと驚く展開のために綿密に組み立てられたものだったのです。 伏線が回収されるラストは、驚きとともにじんわりと感動がこみ上げました。

 

第2位: 「朝が来る」 (2015年)

不妊治療の末、特別養子縁組で母親になった栗原佐都子。 若くして身ごもり、子供を手放すしかなかった片桐ひかり。 2人の母親の物語です。 いつもの辻村さんのような濃密な心理描写も、ミステリ的仕掛けもありません。 しかし、それがかえってストレートに物語りに没入させられます。 そして一筋の光が差し込むような印象的ラストシーン。 辻村さんの新たな境地なのでしょう。

 

第3位: 「本日は大安なり」 (2011年)

「凍りのくじら」と迷いましたが、エンタメに徹したこの作品にしました。 結婚式場を舞台に、同じ日に行われる4つの結婚式の関係者が抱く想いや行動などを同時進行的に語っていきます。 それぞれが抱えたやっかいな事情が徐々に明らかになっていき、どの結婚式が成功し、どの結婚式が破綻するのか? 緊張感が頂点に達した時・・・・ いやー面白かった!

 

次点: 「凍りのくじら」(2005年)「ツナグ」(2010年)

ドラえもん愛があふれる「凍りのくじら」は、私が辻村ファンになった作品です。 「ツナグ」は、たった一度だけの死者との再会という設定の中で、生者と死者のそれぞれの想いが丁寧に綴られる物語。 あと、再読していない(記事書いてない)ので挙げていませんが、「ぼくのメジャースプーン」は傑作です。

 

濃密な心情描写と、ミステリ的な仕掛けの両立という辻村作品は大好きです。 「朝が来る」で、その特徴が後退し、一皮むけて普遍的な傑作をものにしました。

 

「朝が来る」は素晴らしい傑作。 でも辻村ファンとしては、彼女らしい特徴はなくさないで欲しいですねー。