凍りのくじら (講談社文庫)/辻村 深月
 
¥864
Amazon.co.jp
     
35度を軽く超えるような酷暑はなくなりましたが、まだ暑さが続いてますねー。
     
ということで、「納涼読書シリーズ」第8弾は、辻村深月さんの「凍りのくじら」を再読しました。
 
藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。 高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。
    
戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。 そして同じ頃に始まった不思議な警告。 皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき―。 (文庫裏紹介文)
    
辻村さんのデビュー3作目。 「冷たい校舎の時は止まる」、「子供たちは夜と遊ぶ」という1、2作目はミステリ色が強かったのですが、この「凍りのくじら」はミステリの枠からはずれ、辻村さんの独自色をいかんなく発揮した作品だと思います。
      
主人公の高校生・理帆子は、頭が良いが故、誰とでも器用に付き合うことができますが、どこか醒めていて深くかかわることができません。
    
ある意味、他人を見下し馬鹿にしているような理帆子には、あんまり共感できないのですが、理帆子の内面描写をきめ細かくたっぷりと描くことによって、いつの間にか彼女に感情移入させられるのが辻村さんの凄さです。
    
理帆子に共感できているからこそ、理帆子の孤独と喪失感に満ちた日常に最後に光が射すラストに心が震えるのでしょう。
     
この作品のもう一つの魅力は、”ドラえもんトーク”。 どこでもドア、カワイソメダル、もしもボックス、いやなことヒューズ、先取り約束機などなど、全編にドラえもんの道具が登場します。 ドラえもんへの愛情が溢れ、最後のどんでん返しすらドラえもんの道具が使われます。
     
直木賞も受賞した辻村さんですが、実は私が一番好きなのはこの作品から、「名前探しの放課後」までの4作。 若者の心情を細やかに描写し、ラストの謎解きがそれに融け合って感動を生む小説だと思います。 お勧め。 ドラえもんファンも是非!