吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)/中田 永一
 
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中田永一というのは、乙一さんの別名義であることは広く知られています。 私が過去に読んだ乙一さんの小説は、「ZOO」や「GOTH」など、面白いけれどかなりグロテスクな印象があります。
 
ところが中田永一名義の「くちびるに歌を 」と「百瀬、こっちを向いて 」は、とびきり爽やかな青春小説だったので驚きました。 特に「百瀬、~」は、ごく淡い恋愛を描き、ミステリー的な仕掛けもあって、私的にとても好みでした。
 
今回の「吉祥寺の朝日奈くん」は、「百瀬、~」と同タイプの短編集なので、楽しみにしていました。
 
彼女の名前は、上から読んでも下から読んでも、山田真野。 吉祥寺の喫茶店に勤める細身で美人の彼女に会いたくて、僕はその店に通い詰めていた。
 
とあるきっかけで仲良くなることに成功したものの、彼女には何か背景がありそうだ・・・。 愛の永続性を祈る心情の瑞々しさが胸を打つ表題作など、せつない五つの恋愛模様を収録。 (文庫裏紹介文) 
 
『交換日記はじめました!』
交換日記を始めた高校生カップル。 2人だけの交換日記のはずが、次から次へと書き手を変え、予想を超える展開に・・・・ 乙一さんの才能が感じられます。
 
『ラクガキをめぐる冒険』
中学2年生の時に起こった落書き事件。 そこで初恋の相手・遠山真之介に出会った桜井千春は、8年ぶりに連絡を取りますが、意外な真実が待ち受けているのです・・・・
『三角形はこわさないでおく』
白鳥ツトムと鷲津廉太郎。 高校2年生の親友2人が同じ女の子を好きになった。 三角関係の中で、恋愛感情と友情が行きつ戻りつして切なさがこみ上げます。
 
『うるさいおなか』
大きな音でおなかが鳴ってしまう。 そんな悩みを抱えて奮闘する高2の女の子を主人公にしたコメディタッチの一編。
 
『吉祥寺の朝日奈くん』
喫茶店で痴話喧嘩に巻き込まれたことから、喫茶店でバイトをしていた年上の女性と知り合った朝日奈くん。 人妻と知りつつ親しくなっていく・・・・しかし終盤、怒涛の展開に・・・・      
 
淡い恋愛模様にミステリ的謎解きが加わった「百瀬、~」も、非常に完成度が高い作品だとおもいましたが、本作はさらにスケールアップしていました。
 
恋愛以前の淡い恋心が描かれた「百瀬、」と比べると、三角関係や人妻への恋愛感情なども描かれて切なさの要素が加わっています。 それでいて、ドロドロせずあくまで爽やか。 『三角形はこわさないでおく』が典型です。
 
さらに、ミステリ的な要素は、ストーリーにそれが入ってくるタイミングが研ぎ澄まされているため、そこで恋愛風景が一変するのが素晴らしいです。 『ラクガキをめぐる冒険』と『吉祥寺の朝日奈くん』は、ミステリとしても一級品でしょう。
 
ミステリ小説が好きな人が読んでも、恋愛小説が好きな人が読んでも、必ず満足できる傑作だと思います。 文句なしにお勧め。