―――2014年10月25日投稿―――2023年10月24日更新――――

 

ベートーヴェンの交響曲には、第3番「英雄」 第5番「運命」 、第6番「田園」、第9番「合唱」 と、標題が付いたものが4曲ありますが、ベートーヴェン自身によって命名されたのは「田園」だけです。

 

さらに各楽章にも次のような説明がなされています。

 

第1楽章: 「田園に到着したときの朗らかな感情の目覚め」
第2楽章: 「小川のほとりの情景」
第3楽章: 「農民の楽しい集い」
第4楽章: 「雷雨、雨」
第5楽章: 「牧人の歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の感情」

 

ベートーヴェンは、20歳台後半から徐々に難聴に悩まされています。 音楽家としての将来に絶望した彼は、31歳の時に度々静養に訪れていたハイリゲンシュタットで遺書を書くのです。

 

――(中略)というのは、私の聴覚が、この三年来だんだん弱ってきているからです。 そして私は幾度も絶望に陥りました。 私の耳は、昼夜をわかたず低いうなりをあげ、騒がしい音をたてています。 この二年間私は社交的なことはすべて遠ざけてきました。 私は聾者です、とは人に言えないからです。

 

音楽家として、聴力が失なわれつつあるのを人に知られまいとして、人との付き合いをやめてしまっているのがわかります。 ベートーヴェンが人嫌いで気難しかったと言われるのも、こういうところから来ているのでしょうね。

 

その後、ベートーヴェンは強靭な精神力で苦悩を乗り越えて、再び作曲の道を進んで行き、数々の歴史的傑作を生み出すのです。

 

同時期に作曲された交響曲第5番「運命」が、難聴の克服という”苦悩から歓喜へ”をテーマにしているのに対し、この曲は”自然の持つ開放感と安らぎ、そして感謝”が感じられます。

 

ハイリゲンシュタットは、ウィーン郊外にある保養地で、豊かな自然が広がっています。 常に他人とのかかわりを恐れていたベートーヴェンにとって、この地は真の開放感と安心を与えてくれたのでしょう。

 

第2楽章~第4楽章の自然の描写は、描写音楽としても抜群の出来ですし、そして、第5楽章は、”嵐の後の喜ばしい感謝の感情”と同時に、絶望の淵からベートーヴェンを救ってくれた自然に対する感謝の気持ちが溢れているように思います。

 

↓パーヴォ・ヤルヴィ指揮/ドイツ・カンマーフィルで第1楽章を

 

↓同じく第2楽章を

 

↓同じく第3楽章を

 

↓同じく第4楽章を

 

↓同じく第5楽章を

 

 

1940年にディズニーが製作した「ファンタジア」は、オーケストラによるクラシック音楽をバックにした8編(8曲)の物語集で、台詞や物語説明はなく、音楽とアニメーションでストーリーが展開していくという画期的な作品でした。

 

田園交響曲は、その5曲目に登場。 舞台を神話の世界に移し、ペガサス、ユニコーン、ケンタウロス、キューピットなどが登場します。 多少のカットはあるものの、全楽章取り上げられているのが凄いです。

 

ブルーノ・ワルター指揮/コロンビア交響楽団

CDではやはりワルターが素晴らしい演奏です。 とりわけ終楽章の少しタメを作った歌いまわしはワルター独特。 ベートーヴェンの感謝の歌がこれほど感動的に響く録音は他にないと思います。

 

カール・ベーム指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ベームが亡くなる4年前に行った日本公演のライブ録音です。 ベームの田園は、確固たるテンポによって音楽の芯がしっかりし、格調高い演奏を繰り広げます。 誠実で慈愛溢れる最終楽章も素晴らしい。

 

クラウディオ・アバド指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ゆったりしてロマンチックな歌いまわしは、しなやかなウィーンフィルの響きとあいまって非常に魅力的です。 ロマンチックで美しい「田園」を聴きたい人にピッタリ。

 

オトマール・スウィトナー指揮/ベルリン・シュターツカペレ

田園交響曲という音楽をあるがまま自然に再現したような演奏です。 ベルリン・キリスト教会での奥行きのある録音も素晴らしく、あるがままに曲を味わいたい人にピッタリ。