038- 手術当日 | 白ポーターの日常ブログ

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ふわっと更新して行けたらいいなと思っています。たまに病んでしまうこともありますが、温かく見守って頂けるとありがたいです。

君の就職活動、それと同時に進行するようにお父さんの治療も始まる。
病院に入院したお父さんを君と一緒に何度かお見舞いに行ったりした。

思った以上に元気そうだったね。
でも、その時のお父さんの気持ちはとてもじゃないが想像がつかない。

癌という病気の怖さはもちろん、手術がうまく行ったとしても、声が出なくなってしまう。
もし、僕がそんな立場であったなら・・・

そんなことはいくら考えても理解のできることではないだろう。
そう言う点では君のお父さんはとっても強い人だったのかもしれないね。

それと同時に進行するように君の就職活動も本格的になってくる。
求人票を見ては会社選びを繰り返す。

君がやりたい職業の募集はそれほど多くない。
選択の幅があまりないのが現状だ。

それでも、一生懸命に仕事探しをしている君は楽しそうだった。
将来の自分について明るく語っていたね。

君はどんな時でも前向きだった。
僕とはまったく正反対の性格だったのかもしれないね。

僕は君と過ごす幸せな時間がずっと続けばいいと思った。
この頃には、時間が止まってほしい。
そう思うことが増えるようになってきた。

それでも時間は無情にも過ぎていく。
お父さんが入院をしてから数週間後、いよいよ手術の日程も決まる。

手術の時間はとても長くかかるようだ。
基本的に、その時は家族と親戚だけが病院で手術が終わるのを待つことができる。
なぜかその場に僕も行けることになった。

手術前でも君のお父さんは普段と変わらなかった。
その姿を見たときは少し尊敬をしてしまった。

これから大変な手術が待っている。
そして手術が終わり、意識が戻った時には声が出なくなっている。

もし、自分がそんな立場ならどうなっているんだろう。
想像もつかないことだ、きっと自分は生きることへの絶望感しか浮かんでこないと思う。

お父さんは手術室へと運ばれて行く。
その姿を心配そうに見守る家族。
その後はひたすら待合室で待つだけだ。

僕はその間ずっと君と一緒にいた。
他の家族と多少会話はするが、基本的には君とずっと話をしていた。

手術時間はとても長い、お昼をまたぐことは確実だった。
だけど家族の誰かが絶対に待合室にいなければならない。
だから、交代でお昼御飯を食べに行くことになった。

君と僕は一時間程度で御飯を済ませて戻ってきた。
その後はひたすら待合室で手術が終わるのを待つだけだ。

他の家族ももちろんご飯を済ませに行く。
だが、なかなか戻ってこない。
特に君の姉妹は近くのショッピングモールに行ったまま、手術の終わり間際まで戻って来なかった。

君はずっと待合室で心配をしていたのに。
僕はそんな自分勝手な行動をする君の家族が本当に苦手になっていたんだ。

手術時間は本当に長引いた。
午前中に始まったのに、終わるころには少し日は陰ろうとしていた。

手術が終わってからの面会は三人ずつしか行えなかった。
最初にお父さんの親戚が病室へと向かう。
その後に君と僕が病室へと向かうことになった。

そこは集中治療室なので入る時には特別な手順がある。
部屋に入るための大きなドアがある。
そのドアには取っ手などは一切付いていない。
横の壁に穴があり、そこのペダルを踏むとドアが開く仕組みだ。

中に入ると、また同じように足でペダルを踏みドアを閉めなければいけない。
その後は入ってすぐの場所にある洗面所でよく手を洗わされる。
最後にアルコールで手を消毒する。

そして、お父さんの寝ているベッドへと移動をした。
もちろんお父さんは全身麻酔で手術を行っているのでまだ意識は戻っていない。

体からはたくさんの線が伸びている。
何よりも、首に残る手術の痕がとても痛々しさを感じさせる。

僕はその姿を見て胸が痛くなった。
君はそんなお父さんの姿を見て、必死に涙をこらえている。
しかし、それも限界を迎え、君の目からは涙が溢れだしていた。

僕はそんな君の姿をただ見守ることしかできなかった。
面会は一組で五分程度と制限されていた。

「そろそろ行こうか」
ひたすら涙を流す君に僕は小さな声で言った。

君は何も応えず、ただ小さく頷いて出口へと向かっていく。
僕はその後ろ姿を見ながらついて行く。
鼻をすすらせ、少ししゃくりているのか、君の肩はたまに上下に揺れる。

そんな後ろ姿を見ているだけで僕は本当に辛かったよ。
その後は冷静さを取り戻した君と少し話をした。

「今日は一緒にいてくれてありがとう」
君は笑顔でそう言ってくれた。

「なんか僕だけ部外者だったけど平気だったかな?」
僕は正直、あの場にいるのが少し気まずかったからね。

「大丈夫だよ、うちはほんと助かったよ」
そう言って君は僕にひたすらお礼を言ってくる。

そんな君の反応を見て僕は少し安心をした。
お父さんの手術もうまく行ったらしい。
あとは今後の経過を見守るだけだ。

その後はお父さんの退院までに、何度か君と一緒にお見舞いに行ったりしたね。

そして、お父さんは無事に退院をすることができた。
だけど、言葉が話せなくなるということはとても大きな障害となる。
それは君のこれからの人生に大きく左右する出来事へと繋がってくる。

これから君と僕の運命の歯車はさらに噛み合わなくなっていくんだ・・・



なぜ今、君は僕の隣にいないんだろう。
このあと君との関係は一気に悪化をすることになる。
すべては僕のわがままのせいだろう。
考えると胸が苦しくなる。
すべてがうまく行っていたはずなのに。
どうして僕はもうちょっと我慢をするということが出来なかったんだろう。
後悔ばかりをする日々が続くよ・・・