人③「一打ち七つ」 | 獏井獏山のブログ

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小学4年か5年だった頃のこと。小学校の周りは殆ど田圃で彼方此方に溜め池があった。歩いて30分位の所に、隣り合わせ3つの池に挟まれた堤がある。担任の藤村先生に連れて行って貰った遠足は何時もその堤だった。 

堤に付くと先生が「お前ら元気でよく歩いてきたな。少し休もう。」と云って自分から先に仰向けに寝転んだ。生徒達もそれに倣って芝草の上に寝転んで背筋を伸ばしたのを覚えている。しかし、それも5分位すると生徒達は半身を起こして藤村先生の方に目を向ける。その視線を感じたかのように大きな体をムックリ起こした先生は「この前の続きが聴きたいか?」と呼び掛ける。「ハイ!」池に谺する程の喜々とした声が響き渡る。「よし!…この前はどこまで話したかな?」先生の問いに子供達は「巨人と石の投げ合いをして、巨人の石は落ちてきたけど仕立て屋小父さんが投げたのはポケットに入れてあった鳥だったから落ちて来ないで巨人に勝った。」と唱和する。「よく覚えていたな、よし。…すると仕立て屋に負けた巨人は…」と、先生は話の続きを20分ほどしてから学校に帰るのが何時もの事だった。教室に戻ると先生は「この話はドイツのグリムという人が作った童話や。」と教えてくれた。…些細な事のようだが、子供心に学校生活の楽しさを育んで呉れた先生の話は何十年も過ぎた今でも忘れない。

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中学生になった私は相変わらず勉強はしなかったが、図書室にある講談社編の「鉄仮面」「巌窟王」「ああ無情」「トムソーヤーの冒険」等を読み耽った。先生の話は読書の習慣を身に付けるキッカケとなる貴重な出来事だったのだ。また、そのことが延いては作文への興味に繋がるのである…