漫⑯ 小品…「ちょい待ちミーちゃん」との2日間 (2) | 獏井獏山のブログ

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【尻取りゲーム】

 しばらくして座敷に戻ってきたミーちゃんが

「尻取り遊びをしよう、バクイちゃん。」と云った。バク小父さんが、ツン!と横を向くと、その肩を突いて促した。

「尻取り、嫌い?バクイちゃん。」

「バクイちゃん、なんて人はここには居ないよ。バク小父さんなら尻取りは大好きだけどね。」

「それなら、尻取り遊びしよう。バクイ小父さん。」

「いいよ。初めはミーちゃんから云って。」

「ミーちゃんから?…ちょっと待って。…ふ~ん、じゃ、家。」

「いえ?…『え』か。え、え、え…わかった、駅。」

「えき?…き、き、…菊。」ここまでの尻取り遊びは普通に進んだ。ところがバク小父さんが

「きく?『く』か。え~と…く、く、く、…」と、口の中で云いながら考えていると、ミーちゃんが小父さんの耳元で「くま。」と小さな声で云った。それを聞いたバク小父さんは、少し考えるような素振りをしてから

「わかった。熊。」と答えた。ミーちゃんはニッコリと肯いた。

「くま?…ま、ま、漫画。」ミーちゃんの答えは早い。しかしミーちゃんが考える時はいつも真剣だ。それは自分の答えを云う時だけではない。バク小父さんが「マンガ、ね。『が』だね。え~と、が、が、が…」と云いながら考えている時も一緒になって真剣に考える。そして小父さんが答えを云う前に、耳元に来て小声で「がっこう」と云って答えを教えるのだ。小父さんは自分ではなかなか答を思い付かないので教えられた通り

「分かった。学校。」と答える。次はミーちゃんの番である。

「がっこう?う、う、う…兎。」

「うさぎ、か。…ぎ、ぎ、ぎ…」バク小父さんが声を出して考え始めると、ミーちゃんも一緒に考える。そして直ぐに又、小声で「ぎゅうにゅう」と教える。バク小父さんはそんなに早く思いつかないから仕方なく教えられた通り

「牛乳。」と答えるしかなかった。ところがミーちゃんは、小父さんが「ぎゅうんぎゅう」と声を出して考える前から次の答を考え始めていて、直ぐに「海」と自分の答を云い、今度は又バク小父さんが考え始めたばかりなのに、自分勝手に口の中で「み、み、み…」と云ったかと思うと、アッという間に小父さんの耳元で「みず」と囁いた。しかし小父さんも、何時もいつも教えられた通り答えていたのでは格好が悪いので、自分で一生懸命考えて

「道。」と答えた。ところがミーちゃんはそれを認めようとしない。バク小父さんを睨んで「みず、みず…」と云い続ける。これに対してバク小父さんも意地を張って云い返した。

「ダメ。今度は小父さんが考えた答でいく。今度だけ、1回だけ、ね。」するとミーちゃんも諦めた顔になって

「わかった。1回だけよ。その代り今度ミーちゃんの云うことを聞かなかったら、バクイちゃん、と呼ぶよ。」と脅し文句で釘をさした。

「わかった。約束するよ。」言質をとられたバク小父さんはその後、尻取りの答は全てミーちゃんの教えた通りに従ったことは改めて云うまでもない。

 

【駆け引き】

ミーちゃんは見聞きした色んな事を自分の知恵として吸収しているようだ。尻取り遊びに飽いたミーちゃんは

「もう尻取りは止めよう。バク小父さん、ミーちゃんに『あんた、バカね。』と云って。」と、急に変なことを要求した。バク小父さんはミーちゃんの云う意味がよく分からなかったが、云われた通りミーちゃんに向って

「あんた、バカね。」と云った。するとミーちゃんは間髪を入れず

「あんたより、まっしゃぁ~。」と、まるでヤクザの親分が胸を反らせて啖呵を切るような格好を作り、口元を捻じ曲げながら云った。これにはバク小父さんも驚いて腰を抜かしそうになった。しかし、ミーちゃんはそんな事にはお構いなしで

「もう1回云って。」と追い打ちを掛けてきた。バク小父さんはイヤだったが、ミーちゃんに睨まれては続けるほかなかった。

「あんた、バカね。」

「あんたより、まっしゃぁ~。…もう1回云って。」

「もう1回だけだよ。」

「いいよ。」

「あんた、バカね。」

「あんたより、まっしゃぁ~。…もう1回云って。」

「もうイヤ!もう約束は果たしたよ。」

「じゃ、これで最後にするから、あと10回云って。」

「何ぃ~。10回も??!!」小父さんは呆れて、そんなバカなことを云うな、という顔をすると、ミーちゃんも少し無理と思ったのか

「じゃ、あと5回…う~ん、ちょっと待って…じゃぁ、あと3回だけ。」

と云って、まるで『10回の処を3回まで、大負けしてやったよ。』と云わぬばかりに得意顔を作った。バク小父さんも3回なら仕方ないと思って受け入れた。しかし、よく考えて見ると約束はすでに果たしたのだから、このまま終りにしてもよかった筈である。それを、3回で納得させられたのはミーちゃんの駆け引きの巧さに引っ掛けられたのだ。ミーちゃんは最初に「あと10回」と吹っ掛けることに依って、如何にもそれが権利であるかのような錯覚を既成事実の形に作り上げ、バク小父さんも錯覚に陥ったのである。故にミーちゃんが最終的に出した「3回」という数字によって、小父さんは「10回」のところを大負けして貰ったような気分にさせられたのだ。

「あと3回で本当に終わりよ。」と念を押しながら「やられた」と気付いたが、時すでに遅かった。結局「あんた、バカね」「あんたより、まっしゃぁ~」を3回繰り返した。それでも飽き足らず、ミーちゃんは

「あと1回だけ。」と、今度は肩をすぼめて頼んだ。

「もう絶対ダメ。もっと言って欲しかったら、向こうに座っている、バク小母さんに頼めばいい。」というのがバク小父さんの答えだった。ミーちゃんは小父さんが見ている方向に視線を走らせた。

「…ちょっと待って。…バク小母さんって、誰?どれ?」小父さんは少し離れた所に座っていたバク小母さんを指差して教えた。

「わかった。」ミーちゃんは走って行くと、早速バク小母さんに「あんた、バカね、と云って。」と要求していた。

…先刻、肩揉みっこをする前に話をした時、ミーちゃんは漫才が好きでテレビをよく見ると云っていたが、この遣り取りはテレビの漫才から仕入れたネタではないかとバク小父さんは思った。

 

【親切心】