平成8年度刑法第1問(ランクA、難易度C) | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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第1 甲の罪責
1 まず、甲がAに殴る蹴るの暴行を加え「傷害」を負わせた行為につき傷害罪(204条)が成立する。
2 次に、Aが死亡するかもしれないと思いつつ、重症のAを放置した行為につき殺人罪(199条)が成立しないか。
(1)ア まず、Aを放置するという不作為が殺人罪の実行行為たりうるかが問題となる。
     この点、実行行為とは構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいうところ、かかる危険性の惹起は不作為によってもなしうる。
     もっとも、あらゆる不作為が実行行為たりうるとすると罪刑法定主義(憲法31条)に反するおそれがあり妥当でない。
     そこで、作為による実行行為と構成要件的に同価値の不作為のみが実行行為たりうると解する。具体的には、①作為義務があり、②作為の可能性・容易性があれば実行行為といえると解する。
   イ 本問では、甲は、Aを甲のアパートに連れ込んでおり、自己の排他的支配下に置いているので作為義務が認められる(①充足)。
     また、Aを近くの病院に連れて行くことは容易かつ可能であったといえる(②充足)。
     よって、Aの上記不作為は殺人罪の実行行為にあたる。
(2)次に、A死亡という結果も発生している。
(3)では、甲の実行行為とA死亡との間に因果関係は認められるか。
 ア この点、因果関係は構成要件該当性の問題であり、構成要件は違法・有責な行為を社会通念に基づいて類型化したものである。
   とすれば、条件関係の存在を前提に、一般人が認識予見しえた事情および行為者が認識予見していた事情を基礎事情として、当該行為から当該結果が発生することが社会通念上相当といえる場合には因果関係が認められると解する。
 イ 本問で、甲の放置行為がなければA死亡という結果は発生してなかったと思われるから条件関係はみとめられる。
   そして、病院の医師がたまたま外出していることはよくあることであり、一般人には予見可能といえる。とすると、かかる事情は基礎事情となる。
   そして、甲が放置して重症となっているAが、その後病院に連れて行かれたものの医師不在のため手遅れとなり死亡することは社会通念上相当であるといえる。
 ウ よって、甲の行為と結果との間に因果関係も認められる。
(4)したがって、甲に殺人罪が成立する。
3 以上から、甲に傷害罪と殺人罪が成立するが、両罪は同一被害者に対し、時間的場所的に接着してなされているから傷害罪は重い殺人罪に吸収される。
第2 乙の罪責
1 まず、乙が甲と共に、Aに殴る蹴るの暴行を加え「傷害」を負わせた行為につき傷害罪の共同正犯(60条、204条)が成立する。
2(1)また、甲と共にAが死亡するかもしれないと思いつつ、重症のAを放置した行為につき殺人罪の共同正犯(60条、199条)が成立する。
 (2)なお、乙がAをかわいそうと思って病院に連れて行った行為につき中止犯(43条但書)は成立しない。
    なぜなら、中止犯に規定は未遂を前提としており、既遂犯には適用すべきでないからである。
3 以上から、乙には、傷害罪の共同正犯、殺人罪の共同正犯が成立し前者は後者に吸収される。
以上