昭和35年度民法第2問(ランクA、難易度C) | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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※この答案は要件事実を勉強する前(旧司時代)に書いたものです。


1 乙丙間の法律関係
 乙の丙に対する土地明渡請求および抹消登記手続請求は認められるか。
(1)かかる請求が認められるためには、①土地が乙所有であり、②丙が無権原占有であることを要する。
   この点、乙丙間の売買契約は乙の取消し(96条1項)により遡及的に消滅するので、丙は無権利者甲からの譲受人にすぎず、所有権(206条)を取得しないのが原則である。
(2)もっとも、丙は96条3項の「第三者」として保護され、土地所有権を取得しないか。「第三者」の意義が問題となる。
 ア この点、96条3項の趣旨は、取消しの遡及効により不利益を受ける第三者を保護し、もって取引安全を図るという点にある。
   とすれば、「第三者」とは、遡及効の影響を受ける取消し前の第三者に限られると解する。
 イ 本問丙は、乙の取消後に甲から土地を買い受けているので「第三者」にあたらない。
(3)もっとも、取消後の第三者が常に保護されないとするとあまりに取引安全を害する。そこで、取消後の第三者の保護を図る法律構成が問題となる。
 ア 思うに、取消しの遡及効は法的な擬制にすぎず、取消しによって所有権の復帰があったとみることができる(復帰的物権変動)。
   とすれば、二重譲渡と同様に考え、対抗問題(177条)として処理すべきである。かく解すれば、登記という画一的基準で優劣を決することができ、不動産取引の安全に資するので妥当である。
 イ そして、自由競争の下では、悪意者も未だ保護に値するし、177条の文言は善意者に限定していないので悪意者も「第三者」(177条)に含まれると解する。
   もっとも、専ら相手方を害する目的で取引に入った背信的悪意者は、もはや自由競争の範囲を逸脱しており、信義則(1条2項)上「第三者」に含まれないと解する。
ウ 本問でも、○a丙が背信的悪意者である場合には丙は所有権を乙に対抗できない。○bそうでない場合には、登記を先に備えた丙は土地所有権を乙に対抗できる。
(4)よって、○aの場合には前述の要件①を満たし、また、丙は何ら占有権原を有していないので②も満たすことになり、乙の請求は認められる。
   ○bの場合には、要件①を満たさず、乙の請求は認められない。
2 甲乙間の法律関係
(1)まず、甲乙間の売買契約は取消しにより遡及的に無効となり、乙は、不当利得返還請求権(704条)としての土地返還請求権を取得する。
   もっとも、丙が有効に土地所有権を取得し乙に対抗できる場合には、現物返還は不可能であるから、乙は甲に価格賠償請求をなしうるにす
ぎない。
   また、乙は詐欺行為をした甲に対し不法行為に基づく損害賠償請求(709条、710条)をすることもできる。
   そして、乙はこれらをいずれも任意に選択して行使することができる(請求権競合)。
(2)一方、甲は不当利得返還請求権としての代金返還請求権を取得する。そして、乙が価格賠償を請求する場合には、これら両債権は相殺(505条)されうる。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求については加害者たる甲の側から相殺することはできない(509条)。
3 甲丙間の法律関係
(1)まず、甲は丙に対して売買契約に基づく代金支払請求をすることができる。
(2)次に、丙が背信的悪意者で土地所有権を乙に対抗できない場合丙は甲に何らかの請求ができるか。甲は自らの債務はすべて履行しているので、丙は甲に債務不履行責任(543条、415条)追及としての解除や損害賠償請求をすることはできない。
   かかる場合、丙は二重譲渡をした甲に不法行為責任を追及しうるが、背信的悪意者たる丙の過失は大きいので過失相殺(722条2項)されうることになる。
以上