昭和46年度民法第1問(ランクA、難易度C) | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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1 甲の丁に対する所有権に基づく土地の返還請求及び抹消登記手続請求が認められるためには、甲が依然として土地の所有権を有していることが必要である。もっとも、乙が甲の代理人として丙と締結した売買契約(555条)が有効であれば土地の所有権は、甲から丙そして丁へと移転していることになる。
2 では、乙の代理行為は有効といえるか。乙は甲の妻であることから、761条により代理行為が有効とならないか。
(1)この点、761条は夫婦生活の便宜のために「日常の家事」に関する行為につき、夫婦相互に法定代理権を与えたものと解される。
そして、取引安全の観点から、「日常の家事」に当たるか否かは当該法律行為の種類性質から客観的に判断すべきである。
   本問で、乙が行った法律行為は、土地の売却である。土地取引の業者でもない甲乙夫婦にとって、土地の売却という行為は客観的にみて「日常の家事」とは到底いえない。
(2)よって、761条によっては乙の代理行為は有効とはならず、無権代理行為(113条1項)として無効となるのが原則である。
   とすると、甲は依然として土地所有権を有していることになるのが原則である。
3 もっとも、丙は善意無過失で乙と取引をしている。そこで、
110条の表見代理により乙の代理行為が有効とならないか。
(1)まず、取引安全の要請は任意代理権の場合も法定代理権の場合も異ならないので110条の基本代理権には法定代理権も含まれると解する。
(2)では、761条の日常家事代理権を基本代理権として110条を適用することはできるか。
   この点、110条を直接適用して表見代理の成立を認めると、夫婦別産制(762条1項)の趣旨を没却するおそれがあり妥当でない。
そこで、夫婦別産制と取引安全との調和の観点から、相手方において当該法律行為が当該夫婦の日常家事に関する法律行為と信ずるにつき正当な理由がある場合には110条の趣旨を類推適用して相手方を保護すべきと解する。
(3)よって、丙にかかる正当の理由がある場合には丙は保護され、乙の代理行為は有効となり甲丙間には有効に売買契約が成立し土地所有権も売買契約時に甲から丙へ移転する。
4 そうだとしても、丙から悪意で土地を譲り受けた丁は有効に土地所有権を取得するか。悪意の転得者が保護されるかが問題となる。
(1)この点、法律関係の早期安定の見地から、いったん善意者として保護される者が現れた場合にはその時点で権利関係が確定し、その後の悪意の転得者は有効に権利を承継取得すると解すべきである。
(2)本問でも、丙に正当の理由があり、丙が110条の趣旨類推適用により保護される場合には、丁は有効に土地所有権を承継取得する。
5 よって、かかる場合には甲の請求は認められない。
  他方、丙に正当の理由がない場合には、丙が保護されない
  その結果、丁も土地所有権を承継取得することはできず、甲の請求は認められる。
                        以上