旧司平成14年度民法第1問(ランクA、難易度B) | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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1 小問1(1)について
 Bの請求は所有権に基づく物権的請求権であるところ、これが認められるためには、甲土地がB所有である必要がある。
 ここで、Bの親権者たるA及びその妻は、Bの法定代理人であるから(824条)、子Bを代理して行った売買契約(555条)は原則として有効となり、所有権はCに移転しているとも思える。
(1) もっとも、Aおよびその妻は、AのDに対する債務を弁済するために上記代理行為を行っている。そこで、かかる行為は利益相反取引(826条1項)にあたり、代理行為は無効とならないか。
    この点、取引安全の見地から、利益相反行為にあたるか否かは行為の外形から客観的に判断すべきである。
    本件で、Aおよび妻によるCへの売却は外形的には単なる第三者への売却にすぎず、何らAおよびその妻とBの利益が相反するものではない。
    よって、利益相反取引には当たらない。
(2) としても、上記行為はAの利益のためになされていることから代理権の濫用として代理行為の効果はBに帰属しないのではないか。
    この点、代理権の濫用の場合、経済的効果を自己に帰属さとせようとする意思と表示との間に不一致があるので、93条但書を類推し、相手方が悪意有過失の場合には、代理行為の効果は本人に及ばないと解する。
    もっとも、親権者は、利益相反行為にあたらない限り、子を代理して行う行為について広範な裁量を有する。そこで、親権者の行為がこの利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としているなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用にあたらないと解する。
    本件で、たしかに、A夫婦は、Aの債務を弁済するためにBの甲土地を売却しており、Aの利益のために代理行為をおこなったとも思える。しかし、A夫婦は無資力であり、借金の返済ができずに生計を維持できなくなれば子であるBも生活に窮する状態にあった。とすれば、A夫婦の甲土地売却行為は子Bの利益のためでもあるといえる。
    よって、A夫婦の売却行為は子Bの利益を無視しているとはいえず、代理権の濫用にはあたらない。
(3) 以上から、上記代理行為の効果はBに及ぶ結果、甲土地所有権はCに移転しているので、Bの請求は認められない。
2 小問1(2)について
 Cが甲土地をBに返還した場合、Cは不当利得返還請求(703条)として500万円の支払いをBに請求できるか。

(1) この点、500万円を受け取ったのはAであり、しかもその500万円はAの債務の弁済に充てられているので、Bには何ら「利得」がない。
(2) よって、703条の要件を満たさず、BはCに500万円の支払を請求することはできない。
3 小問2について
(1) 本問では、Aは甲土地の売却代金をBの教育資金に用いるつもりであるから、この利益を無視しておらず、代理権の濫用にはあたらない。
    とすると、A夫婦による売却行為の効果はBに帰属することになる。
しかし、Bは本来自らが取得するはずの甲土地売却代金500万円を受け取っておらず、Aの債務の弁済としてDに弁済されている。
そこで、BはDに対して、不当利得返還請求(703条、704条)として、500万円の返還を請求できないか。
(2)ア まず、Dには500万円の「利得」があり、Bにはその分の「損失」がある。また、両者の間には社会通念上の因果関係も認められる。
     では、Dの利得は「法律上の原因」がないといえるか。
   イ この点、「法律上の原因」があるとは、受益者が当該利得を保有するにつき実質的・相対的な理由があることをいう。そして、受益者が当該金銭が他人のものであることにつき悪意または重過失である場合には、当該利得を保有する実質的・相対的な理由はないと解すべきである。
     本件で、DはBの金銭による弁済であることを知っていたのであるから、当該利得を保有する実質的・相対的な理由がないといえる。
     よって、「法律上の原因」がないといえる。
(3) 以上から、BはDに対し704条に基づき500万円の返還を請求することができる。
                        以上


※小問1(2)多くの予備校答案では濫用にあたるとして答案作成されていると思うので、参考のためにあえて濫用にあたらない、というあてはめをしてみた。