1 小問1について
Cは、庭石を占有するEに対して、所有権に基づき庭石の引渡請求をすることができるか。
(1)Cが庭石の所有権をEに対抗できるのであれば、かかる請求は認められる。では、Cは庭石の所有権をEに対抗することができるか。
この点、 Cは庭石の「引渡し」(178条)を受けていないので、第三者たるEに所有権を対抗できないのが原則である。
もっとも、Eへの譲渡人たるDはCに嫌がらせをする目的で庭石を買い受けたいわゆる背信的悪意者である。 かかる背信的悪意者も「第三者」(178条)にあたるか。
この点、「第三者」とは、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する者をいうところ、背信的悪意者は、もはや自由競争の範囲を逸脱しており、信義則(1条2項)上、かかる正当な利益を有する者とはいえないから、「第三者」には含まれないと解する。
よって、 背信的悪意者たるDは「第三者」にはあたらない。
(2)そうだとしても、Cは背信的悪意者たるDからの譲受人Eに対して庭石の所有権を対抗できるか。背信的悪意者からの譲受人が「第三者」にあたるかが問題となる。
この点、背信的悪意者といえども権利を主張できないだけであって無権利者ではない。
とすれば、背信的悪意者からの転得者も、その者自身が背信的悪意者と評価されない限りは有効に権利を取得し、「第三者」にあたると解する。
本問では、Eが背信的悪意者であることをうかがわせる事情は存しない。
よって、Eは「第三者」にあたり、「引渡し」を受けていないCは庭石の所有権をEに対抗することはできない。
(3)したがって、CはEに対し、庭石の引渡請求をすることはできない。
2 小問2について
Bは抵当権に基づく物権的返還請求権として、庭石を甲土地に戻すことを請求することができないか。
(1)かかる請求が認められるためには、Bの抵当権の効力が庭石にも及ぶ必要がある。では、抵当権の効力は庭石に及ぶか。
この点、庭石は、継続的に主物の効用を助けるものであるから「従物」(87条1項)にあたるところ、「従物」に抵当権の効力が及ぶか、「付加して一体となっている物」(370条)の意義が問題となる。
思うに、抵当権は目的物の占有を設定者の下にとどめつつ、目的物の交換価値を把握する権利である。かかる価値権としての抵当権の性質に鑑みれば、「付加して一体となっている物」とは経済的価値的一体物をいうと解すべきである。
そして、従物は主物の経済的効用を助けるものであるから、主物と経済的価値的に一体といえ「付加して一体となっている物」にあたる。
よって、抵当権の効力は、設定の前後を問わず、従物に及ぶと解する。
本問でも、甲土地の従物たる庭石に抵当権の効力が及ぶ。
(2)もっとも、本問で、庭石はDにより乙土地から搬出されている。かかる場合、Bは庭石に抵当権の効力が及ぶことを主張できるか。抵当目的物からの分離物にも抵当権の効力が及ぶかが問題となる。
この点、抵当権は、付加一体物を含めた目的物の全部を支配する物権であるから、分離物にも抵当権の効力は及ぶと解する。
もっとも、抵当権は登記(177条)を対抗要件とする物権である以上、分離物が本来の目的物の公示の衣に包まれている限りにおいてのみ、その効力を「第三者」(177条)に対抗することができると解する。ただし、背信的悪意者は信義則(1条2項)上、「第三者」には含まれないと考える。
本問では、庭石がDによって甲土地から搬出された時点で公示の衣の外に出たといえる。また、Eが背信的悪意者である事情は存しない。
とすれば、その後、Dから庭石を譲り受けたEは「第三者」にあたるから、Bは庭石に抵当権の効力が及ぶことをEに主張することはできない。
(3)よって、Bの請求は認められない。
以上