第1 小問1(条文は特記ない限り刑事訴訟法)
1 本問供述調書を甲に対する証拠とするためには、証拠能力が必要である(317条、厳格な証明)。
2 まず、本問供述調書は裁判官の面前での反対尋問を経ない供述調書であるから伝聞証拠にあたり、322条1項本文の要件を充足すれば証拠能力が認められうる。
3 もっとも、本件甲の自白はAが虚偽の事実を告げたことによってなされたものである。そこで、「任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)として証拠能力が否定されないか(自白法則、憲法38条2項、法319条1項)。
自白排除の基準が問題となる。
(1) この点、自白法則の趣旨は、司法の廉潔性・適正手続き(憲法31条)の見地から、自白採取過程における手続きの適正を担保する点にあると解する。
そこで、自白採取過程に違法がある場合には、当該自白の証拠能力は否定されると解する。
(2) 本件で、Aが甲に対し、「甲と乙が火をつけるのを目撃した者がいる。」との虚偽の事実を告げたことはいわゆる偽計にあたる。
捜査機関が、被疑者という弱い立場にある者に対して偽計を用いて供述を得るがごときは、手続的正義に著しく反することは明らかであり憲法31条に違反する違法がある。
(3) よって、本件自白調書は「任意にされたものでない疑のある自白」にあたり、証拠とすることができない。
第2 小問2
1 本問供述調書を乙に対する証拠とするためには証拠能力が必要である(317条)。
2 本問供述調書は、裁判官の面前での反対尋問を経ない供述証拠であるから伝聞証拠にあたる。
とすると、乙の「同意」(326条1項)なき限り、証拠能力が認められないのが原則である(伝聞法則320条1項)。
3 もっとも、伝聞例外(321条以下)として証拠能力が認められないか。
(1)本件、自白調書は乙の共犯者たる共同被告人甲の供述調書である。そこで、共犯者の供述調書について、321条1項3号と322条1項のいずれの規定の適用を検討すべきか問題となる。
この点、共同被告人も本人から見れば「被告人以外の者」である。とすれば、321条1項3号の適用を検討すべきと考える。
(2)ア 本件では、甲が死亡しているので「供述者が死亡」した場合にあたる。
イ また、甲の供述調書は、乙と一緒に放火した旨のものであるから、他に証拠がないと思われる本件では、かかる供述は「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」場合にあたる。
ウ そして、「特に信用すべき状況の下になされた」か否かは、外部的事情のみならず、供述内容等も考慮して決すべきであるが、甲の供述調書は前述の通り、Aが偽計という手段を用いて得たものであり、「特に信用すべき状況の下にされた」とは到底いえない。
エ よって、321条1項3号の要件を満たさない。
4 以上から、甲の供述調書に証拠能力は認められず、乙に対する証拠とすることはできない。
以上