日本産稚魚図鑑:網羅的という編集方針 | ウッカリカサゴのブログ

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日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

最新の知見を網羅するというのが最重要な方針。
新知見が日々発表され、刊行された時点で過去のものになるのは当然のこと。
第二版が刊行されてから10年たったが、

補訂しつつ可能な限り最新情報という状態を保つにはデジタル版にするべきか?

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以下、沖山宗雄 編 日本産稚魚図鑑初版(1988)緒言から抜粋

『〔前略〕稚魚分類学は各種の初期発育史を明らかにし,その分類学的特徴の整理と類似種からの識別法を確立することを第一義とするもので,ほぼ一世紀におよぶ研究の歴史があるが,一部の地域ないし分類群を除き,今なお未解明の部分が少なくない。

わが国において,この分野のまとまった業績が発表されたのは1958年のことである。

この内田恵太郎他8氏による『日本産魚類の稚魚期の研究 第1集』は水産有用種を中心に各種の形態発育史を集大成したものであり,優れた図示記載を通じてその後の研究の進展に多大の影響を与えた。

次いで1966年には水戸 敏著『日本海洋プランクトン図鑑・第7巻 魚卵・稚魚』が刊行され,前掲書とともに稚魚分類の基本的文献として重用された。

しかし,ともに収録された種数が非常に制約されており,1980年にはこれを補足するものとして『曰本近海に出現する魚卵・稚仔の同定に関する文献目録』が編集された。

また,1986年には小沢貴和氏により外洋性仔稚魚の分類学に関する業績集が出版され研究対象は著しく拡大された。

一方,諸外国においても,近年稚魚の分類や同定に関する手引書の刊行が相次ぎ,1984年には『魚類の個体発生と分類』の大著によって現時点での知見の総括がおこなわれるなど,稚魚研究への関心は世界的な高まりをみた。

このような情勢の下で,既往の知見を網羅した成書の刊行を望む声が強まったのを機に,編者が中心になって『曰本産稚魚図鑑』の出版を企画したところ,幸い東海大学出版会の賛同と全国の第一線研究者の絶大な協力をえることができて,ここに漸く完成をみるにいたった。

収録種数は当初の予想をはるかに超えて約1100種に達したが,これは執筆者はじめ関係各位が未発表の資料を快く提供されたことに負うところが大きい。

分類群によって記載の内容が不統一になったのは,将来の課題を見込んで種名の判明しないものも積極的に取入れたためである。

より網羅的なものという方針にそって,巻末には「卵と孵化仔魚」の項も追加した。

執筆にあたっては無理な同定を避け,正確を期したつもりであるが,思わぬ誤りがないとはいいきれない。

読者各位のご指摘をいただいてより充実したものにしていきたい。〔後略〕』

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以下、日本産稚魚図鑑第二版(2014)緒言から抜粋

『〔前略〕日本産稚魚図鑑を上梓して20年余りが過ぎた.

既往の知見に多くの新しい情報を加えて集大成したこの図鑑は,北西太平洋を対象にした類書がなかったこともあり,国内はもとより海外でも予想外に大きな評価を受けることができた.

その緒言でも述べたように,これが出版された頃は,1984 年に刊行された“Ontogeny and systematics of fishes”に象徴される,稚魚分類学に対する世界的な関心の高まりが一層加速されつつある時代であったことも見過ごすことができない.

この趨勢はつい先頃まで世界各地で優れた稚魚図鑑の刊行が相次いだことにも良く表れている.

その背景には各地で魚類の初期生活史研究が精力的に行なわれ,仔稚魚について多くの情報が蓄積されてきたという歴史がある.

結果的に,今や稚魚分類学は魚類分類学・系統学・生態学の基礎として著しく豊な内容を擁するものとなった.

翻って,最近20年間におけるこの分野の進歩,特に前書では手薄であった熱帯・亜熱帯系の仔稚魚に関する知見の充実を考えると,先の集大成もそろそろ見直しの時期を迎えているように思われた.

このような理由から最新の情報を取り入れた『日本産稚魚図鑑,第二版』を出版するべく鋭意準備を進めてきた.

今回は,前書に引き継いで執筆をお願いした著者も多いが,新たに多数の気鋭の研究者にも参加してもらい,内容を大幅に刷新することができた.

わが国におけるこの分野の研究者層の厚さを再確認できて心強い限りであった.

今回収容された種数は更に多くなり,1544種類に達した.

全体的には前書の構成を踏襲したが,

冒頭で稚魚分類に関する基礎情報をやや詳しく解説したこと

海外の読者の利用の便を考慮して,一部に英文による手引きを加えたこと,および

魚卵の章においてカラー図版を採用したこと

なども本書の新しい試みである.

最新の知見を網羅した本書の刊行によって,正確な種の同定を基礎とした魚類初期生活史学の基礎作りは一層充実したと自負している.〔後略〕』

 

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●魚卵・稚仔文献目録編集委員会(編),1980. 日本近海に出現する魚卵・稚仔の同定に関する文献目録. 日本水産資源保護協会,75 pp.

 

●水戸 敏,1966. 日本海洋プランクトン図鑑. 第 7 巻. 魚卵・稚魚. 蒼洋社,東京,74 pp., 26 pls.

●Moser, H.G., W.J. Richards, D.M. Cohen, M.P. Fahay, A.W. Kendall, Jr. and S.L. Richardson (eds.), 1984. Ontogeny and systematics of fishes, Amer. Soc. Ichthyol. Herpetol., Sp. Publ., No. 1, 760 pp.

●Ozawa, T. (ed.), 1986. Studies on the oceanic ichthyoplankton in the western North Pacific. Kyusyu Univ. Press, Fukuoka, ii+430 pp.

●内田恵太郎・今井貞彦・水戸 敏・藤田矢郎・上野雅正・庄島洋一・千田哲資・田福正治・道津喜衛,1958. 日本産魚類の稚魚期の研究 第 1 集. 九大農学部水産学第二教室,福岡,viii+89 pp., 86 pls.