形態による仔稚魚の分類研究者は絶滅危惧か? | ウッカリカサゴのブログ

ウッカリカサゴのブログ

日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

形態による仔稚魚の分類・同定に携わる現役の研究者は、すでに絶滅状態にあるという噂も聞こえてくるが・・・

形態分類に携わってきた高齢の稚魚研究者がリタイヤして、どんどん少なくなっている一方、DNA(遺伝子)解析による種レベルの同定が相当使える状況になったため、形態情報を必要とする若い研究者が減りつつあるためだ。

しかし、まだまだ形態分類・同定の社会的ニーズはある。

浮遊系生物の水中写真を撮影している世界中のダイバーが形態情報を必要としているのだ。

 

水中生態写真による仔稚魚の種レベルの同定は、よほど形態的特徴のあるものを除いて困難で、ほとんどの場合、科あるいは属レベルに留まる。

 

しかし、ネット採集に伴う鰭(特に伸長鰭条)の破損がなく、見事な色彩(赤橙色、黄色、虹色、白色など)を示す生時の写真や動画は、ゼラチン質プランクトンなどへの随伴状況など、種特有の生態(遊泳的動きを含む)とともに、そこから魚類の初期生残戦略(餌をとる、捕食者から逃れる、浮遊により分布域を広げる)を垣間見ることができる重要な情報を提供してくれる。

 

稚魚研究者は、ホルマリン固定された標本やDNAだけでなく、水中での仔稚魚(に限らないが)の生きざまを観察しなければならない。

 

 

さて、日本産稚魚図鑑第二版(2014)が出版されてからもうすぐ10年になる。

新しい知見が増えつつあり、誤同定がいくつか見つかっているが、増補・改訂版を出すことは非常に困難な状況にある。

編者の故 沖山先生は、「全世界的に見ても、網羅的な稚魚図鑑が出版されることは、これが最後だろう」と仰っていた。

まったく新しい図鑑を刊行するには、仔稚魚の形態図の(商業誌からの)転載許諾等に多大なコストがかかるので、さらに高価なものになってしまい、個人が購入できるような価格ではなくなるのだ。

 

仔稚魚の形態分類・同定の研究には、残された課題(形態不明分類群の解明)がまだまだ多い。

遺伝子解析を併用して(捕獲が必要)、種レベルの形態記載、生時色彩、遊泳方法、懸垂姿勢、捕食・摂餌方法などの生態情報(写真、動画)の蓄積が望まれる。もちろん卵からの飼育に基づく情報を含めて。

 

すなわち、稚魚研究は次のステージに進むのである。

 

参照:水中生態写真集など(未完)

【e-Book紹介】The World of Blackwater(2022)
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12771565382.html

『美しい海の浮遊生物図鑑』第2版が中国語の大型本として出版
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12763048975.html
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12322434937.html

 

「真夜中は稚魚の世界」が来月発刊:追記あり
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12151223563.html

 

Jewels in the night sea 神秘のプランクトン (NATIONAL GEOGRAPHIC)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/18/071800014/

BLACKWATER CREATURES BOOK
https://blackwatercreatures.com/product/blackwater-creatures/

A Field Guide to Blackwater Diving in Hawaii
https://www.amazon.com/Field-Guide-Blackwater-Diving-Hawaii/dp/194930714X
 

「沖山宗雄(編) (2014) 日本産稚魚図鑑 第二版」の正誤表の最新版を準備中
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12681703005.html
 

【記事紹介】飼育下で繁殖に成功した海産観賞魚のリスト (2023年の更新版)
https://ameblo.jp/husakasago/entry-12832526058.html