日本産アゴアマダイ科魚類は、稚魚図鑑第二版(2014)の原稿執筆時点で13種だったものが現在19種(日本産魚類全種目録 ver.23による)となり、種数が近年急増した分類群の一つである。
この類の和名は、語幹が“アゴアマダイ”のものが11種、“アマダイ”のものが8種で、
最近記載された種の語幹はすべて“アゴアマダイ”となっている(下記●)。
〔語幹がアゴアマダイの種:11種〕
シラタマ アゴアマダイ Opistognathus ctenion Fujiwara, Motomura & Shinohara 2023●
バナナ アゴアマダイ Opistognathus flavidus Smith-Vaniz 2023●
アゴアマダイ Opistognathus hopkinsi (Jordan & Snyder 1902)
オオメ アゴアマダイ Opistognathus megalops Smith-Vaniz 2023●
ムシクイ アゴアマダイ Opistognathus nigripinnis Smith-Vaniz 2023●
ミサキ アゴアマダイ Opistognathus ocellicaudatus Shinohara 2021●
ホシカゲ アゴアマダイ Opistognathus solorensis Bleeker 1853
ホソミ アゴアマダイ Opistognathus sp. 1 【2007●】
ヤイト アゴアマダイ Opistognathus trimaculatus Hiramatsu & Endo 2013●
メガネ アゴアマダイ Opistognathus wassi Smith-Vaniz 2023●
ヒメ アゴアマダイ Stalix immaculata Xu & Zhan 1980
〔語幹がアマダイの種:8種〕
ワニ アマダイ Opistognathus castelnaui Bleeker 1859
イレズミ アマダイ Opistognathus decorus Smith-Vaniz & Yoshino 1985
ニジ アマダイ Opistognathus evermanni (Jordan & Snyder 1902)
ニラミ アマダイ Opistognathus iyonis (Jordan & Thompson 1913)
セト アマダイ Opistognathus liturus Smith-Vaniz & Yoshino 1985
シシダマオオクチ アマダイ Opistognathus variabilis Smith-Vaniz 2009
カエル アマダイ Stalix histrio Jordan & Snyder 1902
キビレカエル アマダイ Stalix toyoshio Shinohara 1999
さて、周知のようにアマダイ科(シロ、スミツキ、キ、アカ、ハナの5種)があるので、
語幹が“アマダイ”のアゴアマダイ科の種は極めて紛らわしい。
ちなみに、キツネアマダイ科(和名なしを1種含む)では
語幹が“サンゴアマダイ”のものが4種、“キツネアマダイ”が1種で、
紛らわしいのは“ヤセアマダイ”1種だけ。
ほかに、アカタチ科のソコアマダイ属 Owstonia にも紛らわしい名の魚が4種いる(アカタチモドキのみ異なる)。
・ソコアマダイ
・ソコアマダイモドキ
・オオソコアマダイ
・オキアマダイ
可能なら、どこかの時点で整理してほしいものである。
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ブログ記事『仔稚魚の分類・同定と標本処理について』(2020-09-22)で指摘したように、未記載・未記録の種や十分に整理されていない沿岸性魚類もいくつか残されていた。
『5.3 分類・同定の際の留意事項
仔稚魚の同定は、時間と労力の許す限り、できるだけ下位の分類群まで行うことが望ましいが、種レベルへの安易な同定は慎むべきである。例えば、小型で穴居性など特異な生態を有していて通常の方法では捕獲されにくいため、未記載・未記録の種や十分に整理されていない沿岸性魚類もいくつか残されている(例えばアゴアマダイ科)。』
大元の出典:小嶋純一 (2003).第6編 沿岸域の魚類調査,第1節 魚類の分類・同定と標本処理,1.3 仔稚魚.pp.640-649. in 竹内 均(監修)地球環境調査辞典 第3巻 沿岸域,フジテクノシステム
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以下、日本産稚魚図鑑第二版(2014)で担当したアゴアマダイ科の説明文から抜粋:
『アゴアマダイ科魚類は、砂礫底にほぼ垂直の穴を掘ってすみ、雄が卵を口内保育し、孵化時に浮遊性仔魚として放出することで知られる(Thresher, 1984)。本科は、Lonchopisthus 属、アゴアマダイ属 Opistognathus とカエルアマダイ属 Stalix の 3 属 83 種および多くの未記載種を含み、東部大西洋、地中海と中央太平洋を除く全世界の熱帯から亜熱帯海域に広く分布する(Hiramatsu and Endo, 2013;Nelson, 2006;Smith-Vaniz, 2009, 2010, 2011;Smith-Vaniz et al., 2012)。
日本からはアゴアマダイ属(10種)とカエルアマダイ属(3種)が知られるが(表 29-3-3)、前者については、このほかに水中写真があるものの標本に基づく記録のない種が知られ、今後、種数の増加が見込まれている(Hiramatsu and Endo, 2013;中坊編、2013;Smith-Vaniz, 2009)。
本科魚類の幼期形態については、Leis and Trnski(2000)によるインド-太平洋産仔魚についてのレビューの他、断片的な報告(Vatanachai, 1974;Johnson, 1984)がある。日本産種については沖山編(1988)において“ハタ科 sp.”が本科の可能性のあることが示唆されている。本科仔稚魚は東京湾・新潟県以南の沿岸域において比較的よく採集される。』