スズキコージ。挿絵の画家さんです。
1948年、静岡県浜名郡小野口村、生まれ。赤坂の割烹料理店にて住み込みで働きながら、歌舞伎町などの路上にて作品を発表。「平凡パンチ」の編集者だった叔父のつてで堀内誠一に見込まれ、「平凡パンチ」女性版(「anan」の前身)にてイラストレーターとしてデビューする。
この絵がまたいいですねえ。 このおばあさんの顔を見てください・・・あまりの美味しさにびっくり。
この絵がなかったら、この物語の楽しさも半減するのかもしれない。
ある日、ある夜。
ひとりのおとこが、けちんぼうのおばあさんのところに泊めてくれとくる。
これだけでも、わくわくしますね。
今の現代ではこんなことが実際にあれば、恐くて泊めれる筈もないのですが、この絵本の時代と国では親切な人がいたのでしょうが、最初このけちん坊のおばあさんも、断ります。
「うちはやどやじゃないよ」
「たのむ。ゆかにねかせてもらうだけでいい」
しぶしぶ、男を入れるおばあさん。
おとこに部屋を貸すだけでも、くやしいのに、男は「ああ、はらがへった」
とあたりをきょろきょろ見回すではありませんか。
笑い。
「いやなに、そのなべに、みずをいれてもらうだけでいい」
「おれは、このくぎ一ぼんで、うまいスープをつくれるんだ!」
けちんぼうのおばあさんはおとこのはなしをきいて、どうしてもそのスープのつくりかたをしりたくなりました。
おとこはきのへらで、ゆっくりゆっくりと、なぺをかきまぜています。
「どうだね。うまくできそうかね?」
「ああ、もうすぐできあがりさ」
「だが、ここでほんのすこし、こむぎをいれるともっとうまくなる・・」おとこはいいました。
おばあさんはほんのすこしのこむぎこで、スープがもっとうまくなるときき、しょうくりょうなべの奥からこむぎをとってきました。
「おお、ありがたい」おとこは、なべに、こむぎこをいれると、またゆっくりゆっくりと、かきまわしました。
「どうだね。うまくできそうかね?」
おばあさんはきょうみしんしん、ふつあつにえてきた、なべの中をのぞきました。
「ああ、もうすぐできあがりさ。だが、ここでほんのすこし、ぎゅうにゅうをいれると、さらにうまくなる・・・」男はいいました。
おばあさんはほんのすこしのぎゅうにゅうで、スープがさらにうまくなるときき、しょくりょうべやのおくから、ぎゅうにゅうをとってきました。
「おおありがたい。」おとこは、なべに、ぎゅうにゅうをいれると、ゆっくりゆっくり、かきまわしました。
「どうかね。うまくできそうかね?」
おばあさんは、きょうみしんしん、くつくつににえてきたなべのなかをのぞきました。
「ああ、もうすこしでできあがりさ。だが、ここでほんのすこし、じゃがいもをいれるとますますうまくなる」
おばあさんはほんのすこしのじゃがいもでスープがうまくなるときき、しょくりょうべやのおくからじやがいもをとってきました。
「おお、ありがたい」とおとこはいって、なべのなかをゆっくりゆっくりまわしました。
「どうかね。うまくできそうかね?」
おばあさんは、きょうみしんしん、くつくつににえてきたなべのなかをのぞきました。
「ああ、もうすこしでできあがりさ。だが、ここでほんのすこし、しおづけにくをいれるとますますうまくなる」
おばあさんはほんのすこしのしおづけにくで、スープがさらにうまくなるときき、しょくりょうべやのおくから、しおづけにくをとってきました。
「おおありがたい。」おとこは、なべにしおづけにくをいれると、ゆっくりゆっくり、かきまわしました。
「どうかね。うまくできそうかね?」
おばあさんは、きょうみしんしん、くつくつににえてきたなべのなかをのぞきました。
「ああもうできあがりさ。ばあさんものんでみるか? このスープならば、おうさまにだしたってはずかしくないぞ!」おとこはむねをはっていいました。
おばあさんは、すーぷをひとくちのんでびっくり。
こんなにおいしいスープははじめてです。
くぎいっぽんで、おうさまにだいてもはずかしくない、うまいスープがつくれるとしり、おばあさんはこころのそこからよろこびました。
あまりのうれしさにおとこにパンとチーズとさけをふるまいゆかにねかせず、ながいすをかしてやったほどです。
おまけにつぎのあさおとこがでていくときには、くぎのスープのつくりかたをおそわったおれいにぴかぴかのぎんかを一まい、わたしましたとさ。
そんなふうに物語は、ジエンド、となる。
この話はたんに童話絵本というよりもなにやら楽しい夢のようです。
スズキコージの絵もまた夢のようでシャガールの日本版かなあ。自由で自在で、やはり放浪した人の絵ですね。
このおばあさんははたして、この男にだまされたのだろうか?
日本のテレビ番組で昔、<今もやっているかな>あなたの家に行って一流シェフがあたなの冷蔵庫の中身だけで一流料理をつくります、とかいう番組を思い出しました。・・・・・
普通に考えれば、おばあさんはまんまと、この男にだまされて最後は金貨までとられた・・そう考えるのが普通ですよね。
でも、ひとりぐらしのおばあさんが、ひさびさに若い男性と楽しくお酒を飲んで楽しく夕飯がとれたのかもしれません。
それに、おばあさんは、普段は、
小麦粉やしおづけの肉や、じゃがいもや牛乳をケチるあまり、美味いスープをほんとうにつくれなかったのかもしれません。
素材をケチれば、料理も下手にもなりますね。
しかも、釘と言えば、日本でも黒豆やいかなごの釘煮という料理があるではありませんか。
釘の中にふくまれる、鉄分は、血液中のヘモグロビンとくっついて、酸素のとりこみを多くしますよね。
きっとおばあさんは、このスープを飲んでそのことを肌で感じて、「おいしい」って感じたのかもしません。
そして、次の日、おとこが出て行く時に、あんまり朝の体調が良かったので、ついつい金貨を・・・・深読みですね。
ところで、この絵本は北欧童話、スウェーデンの民謡だったので、スウェーデン人は釘料理が得意なのかなあ、とか思ってブログを閲覧していると、こんな楽しい記事がでていました。
・・・・・
そこで、黒豆作りをしている最中にキッチンをウロウロとしていたスウェーデンの友達に「さびた釘を探してきて頂戴」とお願いしたんです。彼は「さびた釘?」と、不思議そうな顔をしながらも倉庫から探してきてくれたんですが・・・
「ねぇ、これって何に使うの?」
「エッ? お料理に使うのよ。お豆を煮るのに必要なの」
「ゲッ・・・ もしかして、さびた釘をその中に入れるの?」
「そうよ。。。」
「Oh My God!!!」
スウェーデン人にはさびた釘を料理に入れるなんて信じられない出来事のようでございました。。。
というわけで。
童話にはまって、笑っていたら、
昨晩も夜の帳がおりはじめました。