疲れた時に、果実を食することで体中に命が染みわたるように、
疲れた時に、バッハを聞くと、心が充電されていくような感覚にとらわれる。
プラトンの心の故郷ではないが、なにか、懐かしい「場」と「刻」。
そこにかつて在り、そこにかつて生きたことを、今、思い出すような錯覚。
精神の糧。
耳から入ってきた楽譜は、すぐに精神のバランスを調律してくれる。
人間関係に疲れ、ときに自分のやるべきことを忘れていたことを思い出させてくれる。
それも、強引なやり方ではなく、優しく、涙がこぼれおちるくらいの丁寧さで。・・・
木の葉が落ちる 落ちる 遠くからのように
大空の遠い園生が枯れたように
木の葉は否定の身ぶりで落ちる
そして夜々には 重たい地球が
あらゆる星の群から 寂寥のなかへ落ちる
われわれはみんな落ちる この手も落ちる
ほかをごらん 落下はすべてにあるのだ
けれども ただひとり この落下を
限りなくやさしく その両手に支えている者がある
リルケ 秋より・・・
おお、衆人環視のうちに (時梼詩集ー尾崎喜八訳)
おお、衆人環視のうちに衣服を脱いで
司教の衣の前に裸のままで進み出たほど
それほど所有と時代を脱却して
その大いなる貧困にまで強まった彼は何処にいるのか
万人のうちの最も親しみ深く愛に満ちたもの
彼は若やかな年のように来て、そして生きた…
リルケ