尖閣を「海洋保護区」にして守れ 東海大学教授・山田吉彦 |   心のサプリ (絵のある生活) 

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尖閣の島々は美しかった。透き通るような藍色の海面に、深緑の亜熱帯樹林と白く切り立った岩肌が鮮やかなコントラストを描く魚釣島が浮かぶ。目を南小島に転じれば、岩が教会の尖塔(せんとう)のように海上にそびえ立つ。隣の北小島には全体を覆うように、海鳥が生息する。秋がもう少し深まると、アホウドリも姿を現すという。周辺の海底にはサンゴ礁が広がり、ウミガメも数匹海面を漂っていた。周辺海域は、黒潮が餌となるプランクトンを運ぶため、スジアラやアカマチなど高級魚も多く集まる格好の漁場だ。クロマグロの産卵場としても知られている。

 ≪生物多様性条約で設定うたう≫

 9月2日に東京都が実施した尖閣諸島海域の調査に同行して分かったのは、尖閣が自然の宝庫であるということだった。だが、ヤギの繁殖で諸島最大の魚釣島の植物が減少し、土壌が崩落するといった問題も明らかになった。流れ出たその土砂が、周辺のサンゴ礁を破壊する危険性がある。日中中間線付近では、日中漁業協定で操業を認められた中国漁船による乱獲も進む。このままでは、いずれ漁業資源は枯渇してしまう。埋蔵量豊富とされる周辺海底油田の開発にも、時間を要しよう。

 したがって、尖閣周辺海域で我が国がまず行うべきは、海洋環境の保全と水産資源の保護である。その目的のために国家が海洋を管理するという考え方に立ち、1992年のリオデジャネイロの国連環境開発会議(地球サミット)で調印された生物多様性条約では、締約国に国家管理の「海洋保護区」を設けるよう求めた。

これを受けて、我が国は、海洋基本法で海洋保護区の設定を推進することとし、そのあり方をまとめた。しかし、明確な指定制度はなく、国立公園などの環境保全地域に指定した海域、あるいは、海洋生物保護のため漁協や漁業者が定める漁業規制海域などが、それに相当する程度である。ややもすると、規制が前面に出過ぎて、海底資源開発など公共の利益を阻害しかねない状況である。

 ≪米国のモデルに安保の意義≫

 モデルケースがある。

 2006年、ジョージ・W・ブッシュ米大統領は、北西太平洋に全長1931キロに及ぶ世界最大級の海洋保護区「北西ハワイ諸島海洋ナショナルモニュメント」(現パパハナウモクアケア海洋ナショナルモニュメント)を設けた。これは、許可なくして船舶が通航し、観光や商業活動が行われ、動植物が捕獲されることに制限を課すのが狙いだった。

 広大な海域を海洋保護区にすることで、管理が行き届いていなかった遠隔離島を、国家が直接、管理する態勢を整えたという、海洋安全保障上の意味合いが大きい。この保護区は自然、文化両面の価値を認められ、現在、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている。

 9月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化して以来、中国による尖閣海域への攻勢は激しさを増す。が、日本の対応は、専ら海上保安庁に頼って領海警備を続けるだけだ。そのために割かれる海保の人員や装備にも限界があり、予想される長期戦に持ちこたえるとなると大変だ。国有化された先の魚釣島、南小島、北小島の3つの島も海保の管轄下に入った。
今こそ、速やかに尖閣諸島の管理態勢を充実させなければならない。そのためには、統合的な海洋管理施策を尖閣海域に導入する必要がある。遠隔離島の管理には、ブッシュ政権が打った海洋保護区設定という手が有効だ。

 ≪保護目的で船舶接近を阻止≫

 2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議では、20年までに世界の海域の10%を保護区にするという目標が掲げられた。その中で我が国はより広い海域に海洋保護区を設定するよう要請されている。

 日本政府は条約に則(のっと)って、尖閣海域に海洋保護区を設定し、日本が尖閣を管理する正当性を国際社会に改めて訴えるとともに、国際機関と協力して海域の生物多様性維持に乗り出すべきである。手始めに生態系の調査や、ヤギの駆除などの島の環境保全活動を国際的機関と一緒に進めることだ。

 さらに生態系を保全し水産資源を確保するため、海保による入域船舶の管理を徹底して行い、中国の船舶の領海への接近を阻む。海洋保護区の設定を、日中漁業協定見直しの根拠としても利用し、乱獲に歯止めをかけるのである。

 最終的には、天然資源保護、漁業と公共の利益などの諸要素の間でバランスを取る、日本型海洋保護区の構築を目指してはどうか。日本の場合、海洋保護区の管轄官庁は現在、環境省と水産庁に分かれている。だが、安全保障をも視野に入れて、防衛省や海保の協力も得て内閣官房総合海洋政策本部に一元化すべきだろう。

 東シナ海の平和を守るため、尖閣海域に海洋保護区を設定すること、そして、そこに国際社会を取り込んだ、しかし、中国、台湾は嘴(くちばし)を挟めない、堅固な管理態勢を築くことが急務である。(やまだ よしひこ)