「相手の話に耳を傾ける。これが愛の第一の義務だ。2」 ポール・ティリッヒ<神学者> |   心のサプリ (絵のある生活) 

  心のサプリ (絵のある生活) 

画家KIYOTOの病的記録・備忘録ブログ
至高体験の刻を大切に
絵のある生活 を 広めたいです !!!

「相手の話に耳を傾ける。これが愛の第一の義務だ。」 ポール・ティリッヒ<神学者>

村上春樹のある小説に、自分は他人の話を聞くことが大好きでということで様々な人から聞いた話について書いた小説があるが、私も他人の話を聞くことは大好きである。平凡で普通の人の話の意外におもしろいこと、これは、いわゆるマスコミ関係の人の比ではない。
劣等感に裏打ちされた虚栄と独りよがりの作り話よりも、そのあたりに住んでいる奥様の独り言に近い話はものすごく感動できる。
年代からすると、90歳 80歳 70歳 60歳 50歳 の順で、おもしろいと思う。

ただ、50.60代の特徴は、アメリカ合理主義の影響が強すぎて、ジーンズをはいているこじゃれた若作りの奥様の話はおもしろくもなんともない。娘も母親嫌いが、多い。この傾向はなんなんだと思う。

やはり、70以上の方の、苦労話や男女観や、料理の裏工作、趣味、歌舞伎や能の話、子供の育児、旦那操縦法、すべてが、楽しく包容力に富み、聞いていて飽きない。




三島由紀夫が作家の人生なんてまったくつまらないものだ、と書いているし、ワイルドも社交界での生き様を芸術以上に大切にしたふしもある。

一生の間にあまたの女性を口説きその体験を50才以上になってから書き上げたカサノバも、その創作がぎりぎり、間に合った好例である。石川淳や岡本かの子も晩成の作家である。

20代に作家になった人のエッセイなどを読むとまことにつまらないものが多いし、こんなことを書いていてこの年でこの程度の把握力なのかな、と驚く作家もいる。

つまり人から使われたり、人に裏切られたり、いろいろな人生の苦難をなめてから作家に鳴った人との違いである。水上勉なんかはその点で非常に書くものに奥がある。

もちろんワイルドが言っているように、芸術とは人生そのものではなくて人生を見る人を書くものであるし、吉行淳之介が書いているように「いろいろな体験を積むことと作品を書くことはまったく違う」ということも間違いないことだ。


ところで。
村上春樹の「海辺のカフカ」に、源氏物語が登場しているのには、驚いた。
アリストパネス、シェークスピア、ギリシャ神話、ギリシャ哲学、トルストイ、ドストエフスキー、ユング、フロイト、源氏物語、千夜一夜物語、夏目漱石全集、

カフカ君が読む、本は、実は、村上春樹の読んでいるリストだと私は思っている。
良い意味でノーベル文学賞を実は無意識に狙っているのかもしれない。

山小屋、森、深い闇、なお子のような自閉、そしてそのための山小屋、猫、傘、ジャズ、食料品の数数、
しかしながら、「彼は俺のことを書いている」とのたまう、読者が後をたたないそうな。

村上春樹は芥川賞も 直木賞もとれなかった。
文壇との距離感も、おもしろい。

ある意味では、日本文学の最高にして最大の、自閉の作家かもしれない、しかも成功した。

30歳まで、彼は自分が経営するジャズ喫茶のお客様の話をただ、えんえんと、聞いて、物語をそこから糸を紡ぐ。

どの作品を読んでも、「ノルウェイの森」の●●部作という感じなのだが、読んでいる時間の幸福観が、彼の持ち味なのかもしれない。

ちなみに、森のシーンで、雨の中ですっぱだかで、15歳の少年カフカが、からだを洗うシーンが好きだ。

私は、とにかく、ベストセラーを買って読む事が好きではない。
カビ臭い古本屋で、少し、皆が読まなくなって飽きられたぐらいの、見放された本の中から、自分の
肌にあった、しかも、おっと思わせる作品を、発見することが趣味なので、海辺のカフカを今頃
読んで自分のための記録を記すのである。
あしからず。海辺のカフカ (上) (新潮文庫)/村上 春樹

¥740
Amazon.co.jp